連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第86回 『リフレジレイター 人喰い冷蔵庫』

『リフレジレイター 人喰い冷蔵庫』
※VHS廃番

『リフレジレイター 人喰い冷蔵庫』
1991年・アメリカ・90分
監督・脚本/ニコラス・A・E・ジェイコブス
出演/ジュリア・マックニール、デビッド・シモンズ、アングル・ギャバンほか
原題『THE REFRIGERATOR』

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 日本ではピアノが女子高生(筆者の高校の同窓生・田中エリ子さん)を食べる『HOUSE ハウス』(77年)なんて大林宜彦監督の素敵な作品があったが、こちらは冷蔵庫が人を喰う。題名の「リフレジレイター」とは英語で冷蔵庫のこと。この10月、増税に向けて駆け込み需要に沸いた日本列島だが、家電売り場でもアツアツの新婚カップルが冷蔵庫を購入しようと楽しそうに選んでいたことだろう。だが、もしもその冷蔵庫が2人の仲までをも冷やしてしまうとしたら......。


 オハイオ州から花のニューヨークに引っ越してきた田舎もんの新婚カップル。新郎スティーブはケーキ職人を辞めて会社勤め、新婦のアイリーンは教師を辞めて女優と、それぞれ新たな希望に燃えている。不動産屋を回って新居を探す2人は、ラッキーにも2ドア冷蔵庫備え付き、4DKで月200ドルという激安アパートを見つける。デーモン街という不吉な名称のプエルトリカンが多く住むエリアだが、それを差し引いても安すぎる。当時のアメリカには事故物件サイト「大島てる」は存在しないが、ホヤホヤの新婚さんには全く問題なかった。

 憧れのニューヨーカーとなった夫婦だが、スティーブに漂うダメ亭主感が心配だ。それなりにイケメンなのだが、何か頼りなくてメンタルが弱そう。野性味溢れるワイルドガイに奥さんを寝取られてしまうタイプ。
案の定、引っ越した夜は「今日は疲れたの」とアイリーンにセックスを拒否され、翌朝に初出勤しようとすると車のタイヤの空気が抜けている。通行人に修理屋の場所を聞くが誰も教えてくれない。仕方なくスティーブは慣れない手つきでタイヤ交換を始めるが、新品のシャツを汚してしまい「ジーザス!」とイラつき、思わずタイヤを自分の足の上に落として悶絶。それを見ていたギャング系のガキどもに笑われた挙句、地面に並べておいたタイヤのネジを四方八方に蹴散らされてしまう。

 スティーブはカッカしながら汚したシャツを着替えるため家に戻ると、なんと妻のアイリーンは「修理を頼んだの」と、住人で配管工のユアン(ヒゲ&マッチョのワイルド系プエルトリカン)を招き入れ、楽しそうにお茶しているではないか。スティーブは朝のトラブルで初出勤日にいきなり遅刻し、社長に怒られて心身ともに疲れ果てて帰宅。早くも新婚生活はギクシャクし始める。

 とりあえずアルコールを飲んで落ち着こうと、スティーブが冷蔵庫を開ける。すると内部から放たれる怪しい光に魅入られたスティーブは、ドアを開けたままの冷蔵庫の前に妻を座らせ自分のパンツを下す。「え、今こんな所で?」と不審に思うアイリーンとスティーブの仲は急激に冷めていく(急冷機能)。実はこの冷蔵庫、新しい住人が引っ越してくるたびに「グオーッ」と吠えてドアでパクッと噛み付いて食べる人喰い冷蔵庫だった。『仮面ライダー スーパー1』(80~81年)に出てきた冷蔵庫怪人コゴエンベエ(1ドア)は人間を四次元に送っていたが、こちらの人喰い冷蔵庫は内部から通じている地獄へと人間を送り込んでいたのだ。

 人喰い冷蔵庫は旧式にも関わらず高性能だ。人間なんて何十人でも入る大容量で、死臭も気にならない除菌・脱臭仕様。カットした手首や頭の鮮度を長時間保つ新鮮野菜室、コンセントを抜いても可動する省エネ・節電設計。また他の家電や家具と連動し、ジューサーで顔を削り、ゴミ箱で足を食い千切ることもできる機能も利便性が高い。そうとは知らず、修理に訪れた配管工の助手も新居を見に来たアイリーンの母親も冷蔵庫に喰われて行方不明となり、褐色の美形占い師タニアは「冷蔵庫は死神の使い」と警告する。

 そして人喰い冷蔵庫の洗脳により操られたスティーブは、ついにアイリーンを生贄にしようとする。だがスティーブは必死に抵抗するアイリーンの逆襲に遭い、包丁で刺し殺されて冷蔵庫に喰われてしまう。冷蔵庫は次にアイリーンを狙うが、危機一髪のところを配管工のユアンが救う。数年後に2人は結婚し、コンビでダンサー・デビューを果たし幸せに暮らしたとさ。一方冷蔵庫は、アパートに越してくる新鮮な人肉を今日も静かに待ち続けている(静音設計)。


 監督・脚本のニコラス・A・E・ジェイコブスは、他にフィルモグラフィーが見つからない無名の映像作家ではあるが、マドリード国際映画祭で最優秀脚本賞と評論家特別賞、ヒューストン国際映画祭では金賞を受賞した。レベルCの国際映画祭にせよ、それなりに評価されていたのでVHSビデオ止まりは惜しい作品だ。
 なお、パクリなのか定かではないが、2012年にフィリピン版の人喰い冷蔵庫『PRIDYIDER』が製作されている。元祖から20年を経た映像技術による最新式人喰い冷蔵庫の基本性能(笑)は格段にアップしている。気になった方はYouTubeで探してみよう。

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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