連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第68回 『リンダ・ブレアのグロテスク』

『リンダ・ブレアのグロテスク』
1987年・アメリカ・93分
監督/ジョー・トルナトーレ
脚本/マイケル・エンジェル
出演/リンダ・ブレア、ドナ・ウィルクス、タブ・ハンターほか
※VHS廃番

 1973年の大ヒット作『エクソシスト』。翌年に公開された日本でも、これまで体験したことのない悪魔の激コワ映像に国民が戦慄した。先日、テレビドラマ版『エクソシスト』を観たのだが(これから観る人はネタバレ注意)、悪魔に憑依される少女の母親が、映画版の少女リーガンを演じたリンダ・ブレアに何となく似てるなあ~と思ったら、40数年後のリーガンという設定だった! 彼女の面影がある女優をキャスティングしたのだろう。

 リンダ・ブレアは『エクソシスト』の後はあまり作品に恵まれず、今回紹介する作品もそんな低迷期の1本だ。なぜ同作品を取り上げたかというと、この度『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』で第90回アカデミー賞の「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」を日本人で初めて受賞した辻一弘の快挙に思うところがあったからだ。映画の特殊メイクをキーワードに内容を解説していこう。


 特殊メイクの巨匠・クルーガーは、郊外の山中で暮らしている。その娘リサ(リンダ・ブレア)が、友人のキャシーを連れて帰郷する。14歳の時に出演した『エクソシスト』から14年、リンダ・ブレアは28歳のレディーに成長している。

 家に着くと、いきなりクルーガーが半魚人の被り物をしてキャシーを驚かし、寝ようとすれば枕の下には人間の手。パパさんの仕事場には、所狭しとプロップ(映画で使った小道具)が並んでいる。リサはママさんに「パトリックは元気?」と尋ねるが、それが誰なのか何の説明もなく話は進む。

 その夜、各地を荒らしまわるパンク・ファッションの強盗団が邸内に浸入し、両親とキャシーが殺害される。リサは雪の積もる山中へ逃走し、1人がそれを追い、他のメンバーは金目の物を見つけようと家捜しを始める。

 メンバーの2人が本棚の裏に隠し部屋を見つけると、そこは子供部屋のようだ。突然「ワアアア~」と奇声を発して顔の変型したセムシ男が飛び出してくる。セムシ男は物凄い怪力で、喧嘩馴れした2人をあっという間に捻り殺す。これがパトリックだった(ビデオ表紙の男)! 彼は日本で言う座敷牢に幽閉されていたのだ。

 部屋の外に出たパトリックは、両親が殺されたことを知り大号泣からの大激怒! パトリックを見て驚いたメンバーたちは「やべえ、バケモノだ!」と屋外へ逃げるが、怪力で立て続けに3人が殺される。

 やがてパトリックは、男がリサに馬乗りになり首を絞めているところへ追いつく。パトリックは男を殺してリサを救出するが、気絶している彼女を死んでいるものと勘違いし、泣き喚きながら山中へ消えていく。リサとパトリックは兄妹なのか?

 その頃、死体がゴロゴロ転がるクルーガー邸に、陽気なカントリー音楽をかけながらウキウキと車で向かうクルーガーの釣り仲間。到着した彼がドアを開けて「オーマイガ!」。通報で警察とリサの叔父ロッドが駆け付ける。警官隊の山狩りが始まり、リサは保護されて病院へ運ばれる。

 その頃、残り2名となった強盗団のリーダーとそのオンナがパトリックと激突! リーダーは拳銃でパトリックに6発全弾撃ち込むが、彼は死なない。そこへ銃声を聞きつけた山狩り隊が集結。パトリックをバケモノと思った警官が、非情にもその頭を撃ち抜いて射殺する。ここぞとばかりリーダーは泣くフリをして「車が故障したので、あの家に助けを求めに行ったら、このバケモノが出て来て仲間たちを殺したんだ~! エーン、エーン」と被害者ヅラする。それを疑う警察は署で2人の尋問を始める。

 真実を語れるのはリサだけだが、残念ながら意識不明のまま病院で死亡。仕方なくロッドは警察官に重い口を開く。「彼はバケモノじゃない。捨て子を兄が引き取り、一家で育てたんだ」。だが死人に口なし。結局リーダーらは証拠不十分で釈放される。

 ロッドは署から出てきた2人をショットガンで脅して拉致する。防音設備のある自宅で手術台に2人を拘束し、「パトリックは私の息子だ」。これを聞いて愕然とする2人。ロッド夫妻が育児放棄したので、弟想いの兄が世間から隠して育てていたのだ。さらにロッドは「兄は私自身の悩みも救ってくれた。知りたいか? これだ!」と言って、顔の皮膚をペリペリ! ロッドの素顔もパトリック同様に醜く変形していたのだ。兄はホラー映画の精巧な特殊メイク技術で、弟が社会で生きられるように「顔を作って」あげていたのだ!

 ここ、20年くらい前にビデオで観た時「いやいや、さすがにバレルだろ?」とバカにしていたのだが、今では「辻さんなら!」と思ったわけだ。でもロッドは、自分の顔に対するコンプレックスから形成外科医になったのか(そこの説明はなし)? そしてロッドは、2人の顔を自分やパトリックと同じようなグロテスクに形成手術してしまう......。

 と、ここで唐突に場面は映画館に転換する。客席には劇中の登場人物らがいて、今までの話は彼らが観ていた映画だった、という態だ。そして客席にフランケンシュタインの怪物と狼男が「本当の怪物はどんなものか見せてやろう」と現れる。客席はパニックになり、リンダ・ブレアも「キャ~ッ」と悲鳴を上げて逃げ惑う。このラスト、いる?

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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