第70回 『チキン・パーク』
『チキン・パーク』
1994年・イタリア・90分
監督/ジェリー・カーラ 出演/ジェリー・カーラ、デメトラ・ハンプトンほか
原題『CHICKEN PARK』
7月13日に公開が迫る『ジュラシック・ワールド 炎の王国』(アメリカ公開は6月22日)。『ジュラシック・ワールド』の続編で、前作で生き残ったヴェロキラプトルのブルーと、育ての親オーウェンが再会。今回のティラノサウルスはどんな活躍を? そして新恐竜インドラプトルとは? 作品は『ジュラシック・パーク』(以後『JP』)シリーズの5作目に当たるが、1作目の大ヒット以降、「ジュラシック何とか」という便乗作品が山ほど製作された。中でも公開直後にパチモノ大国イタリアが製作した『チキン・パーク』は、異色というか本当にバカな映画だった。
イタリアの養鶏業者ヴラッドは、ジョーと名付けたシャモを擁してドミニカの闘鶏で一攫千金を狙う。だがヴラッドがちょっと目を離した隙にジョーは何者かに盗まれてしまう。ヴラッドは盗難先と判明したバッド・エッグ島へ飛び、「チキン・パーク」というテーマパークに辿り着く。パーク内のジャングルを歩き回り、尿意を催したヴラッドは樹木に立ちション。すると「コケコッコ~!」。木と思ったのは身長7メートルもある巨大ニワトリの足(実寸大の作り物)だったのだ。
「どしぇ~」と驚いてヴラッドがジャングルを抜け出すと、「ようこそ、チキン・パークへ」と創立者のミスター・エッグスが登場する。白い帽子、白いスーツ、白い靴という白ずくめの服装は、『JP』でパークを建造したインジェン社のハモンド会長のパロディだ。そこへダチョウ大のニワトリの集団がドドドドドと走って来るので、倒木の隙間に入って群れをやり過ごす。また10メートルの巨大ニワトリが横たわっていて、医療班の治療を受けている。これらは『JP』でお馴染みのシーンだ。
エッグスは、ゴリラやエイリアンに精通するシガーニー博士(シガニー・ウィーバーのニセモノ)をヴラッドの案内役に付ける。ここには他に、牛を一口で飲み込み交尾を45日連続できる「ゼツリン」や、突然変異のゲイブリッド種「モーホ」がいると説明される。そしてパークの巨大ニワトリは、単に普通のニワトリを巨大化させたわけではないことが解る。なんでも1億年前にセックスが大好きな巨大ニワトリが繁栄する時代があって、エッグスは1億年前の琥珀から巨大ニワトリの血を吸ったケジラミを発見し、その血からクローンを作ったのだという。ちなみに、ジョーは交配用として捕まっていた。闘鶏で見せた野性味溢れるファイトが種付け用に最適と、誘拐スタッフの目に留まったのだ。
さて、島で家族と暮らすエッグス(バツイチ)は、ヴラッドを晩餐に呼ぶ。エッグス夫人は、嶋田久作と柔道家の篠原信一を足して2で割って女性にしたような異相の持ち主。連れ子の兄妹は、コンドームにアイスピックで穴を空けまくり世界中にばら撒くイタズラッ子(子役にそんなことさせていいの?)。3人は『アダムス・ファミリー』一家と同じ扮装で、いちいち「ダダダダ、チャッチャッ♪、ダダダダ、チャッチャッ♪」という例の音楽も流れる。お手伝いさんはなぜかシザー・ハンズで、肉や果物を上手に切り分ける。
客室でお泊りのヴラッドとシガーニー博士。ヴラッドを気に入ったエッグス夫人が鍵穴から覗くと、シガーニーはヴラッドのペニスを、マスタードを塗ったサンドイッチに挟んで舐めている。体が火照った夫人は急いで自室に戻り、『アダムス・ファミリー』に出てくる指でトコトコ歩く「ハンド」を呼び寄せ、自分の股間をいじくらせる。......下品なり、マカロニ・ジョーク。
やがてヴラッドは、本来の目的であるジョーを奪還して車で逃げる。これを知ったエッグスは、チキン・パークの監視システムを解除させ、巨大ニワトリを柵の外へ放す。ズン、ズンと地響きが鳴る度に車が揺れる。ジャングルの中から「コケコッコ~!」とゼツリンが出現! そこへクチバシにルージュ、付けマツゲとピアスのモーホが登場! 「ゼツリンVSモーホ」という巨大闘鶏のゴングが鳴る。モーホはダイナマイトをくわえて、ゼツリンに口移し。それがゼツリンの口内で爆発してモーホの完勝。その頃エッグス夫人は「ハンド」を伴い「実家に帰らせてもらいます」。だが怒ったエッグスが「ハンド」を銃撃。「ハンド」は最後の力を振り絞って島の自爆ボタンを押す。「ドカーン!」
主人公のヴラッドはジェリー・カーラ監督自ら演じたが、ここで驚いたのは特撮監督にクレジットされているアントニオ・マルゲリーティ。彼の別名義がアンソニー・M・ドーソンと聞いてピンと来た人は相当のマニア。カルトSF『惑星からの侵略』(65年)、『ピラニア』のパチモン『キラーフィッシュ』(78年)、『スター・ウォーズ』のパチモン『ヒューマノイド 宇宙帝国の陰謀』(79年)、ベトナムで食人を覚えた帰還兵が精神病院を脱走して市民を食いまくる『地獄の謝肉祭』(80年)など、マニア人気の高い作品の監督を務めてきたイタリアB級映画界の巨匠だ。『チキン・パーク』でドーソンは、頭と足だけ作った実寸大の巨大ニワトリを俳優と絡ませ、あとは合成技術とミニチュアワークで本物のニワトリを巨大に見せた。1994年にこんな楽しい昭和特撮が見られたのも、低予算のなせる業だ。
第1作目『JP』は、アニマトロクスという精巧なロボットとCGを併用し、全編CGだった『ジュラシック・ワールド』よりも恐竜の描写に奥行きが出ていたと感じる。うれしいことに『ジュラシック・ワールド 炎の王国』では、原点に戻ってアニマトロクスを多用する旨をJ・A・バヨナ監督が言及している。わかってるなあ~、監督!
(文/天野ミチヒロ)