第27回 『ダ・ダーン』
- 『ダ・ダーン』
1992年製作・日本映画・50分 ※劇場未公開
監督・脚本/永森裕二
出演/レジー・ベネット、モロ師岡、浅野愛子、ポール牧ほか
ビデオ/徳間ジャパンコミュニケーションズ(廃盤)
ジャングルに面した水面から突然「ザバ~ッ」と、やたら体格のよい水着姿の白人女性が現れる。女は「ダ、ダーン!」と力強く叫びながらボディビルのポーズをしたかと思うと、その豊満な乳房を両手で抱えながら「ボヨヨン、ボヨヨン」と左右に揺さぶる。このインパクト抜群のCMは、'91年に放送されたピップフジモト(現ピップ)の栄養ドリンク「ダダン」のCMだ。
女性はアメリカの女子プロレスラー、レジー・ベネット。これで人気者になったレジーは日本のプロレス団体に招聘され、ブル中野やアジャ・コングなど錚々たるスターレスラーらと対戦し、タイトルも獲得した。そんなレジーが'92年に主演を務めた映画が『ダ・ダーン』だ。脚本・監督は、『くりいむレモン』『ガチバン』『マメシバ』など、次々と人気シリーズを生んだ名プロデューサーの永森裕二で、これが監督デビュー作。
宇宙の彼方に浮かぶ「母なる星」では、なぜか地球人のダメ男をコンピューターで割り出しては、アンドロイドを派遣して矯正をしていた。星の総帥マミー・ダディに扮するのは、指パッチンのポール牧。実はダダンのCMで、レジーの台詞と振付を考えたのが、このポール師匠だ。
コンピューターに「人類最低のダメ男」として松男(モロ師岡)がリストアップされる。なんでも「全世界のダメ男の90%が日本に集中」しているのだそうだ。......反論できん(笑)。松男は東京駅のコインロッカーから発見された捨て子で、ネガティブに成長してきた。総帥は松男を救うため、リングコスチュームそのままの格好をしたレジー・ベネットが扮するアンドロイド48号を地球に派遣する。
さて、同じ孤児院で育ったまどか(人気グラドルの浅野愛子)も東京駅で発見されたコインロッカー・ベイビーだが性格は松男とは正反対で、ポジティブに「ときめきネット」というテレクラを開業し、松男にチラシ貼りをさせていた。その松男は、不良高校生や他店のチラシ貼りのチンピラ達に絡まれ、勝気なまどかにも泣かされる辛い毎日を送っていた。そこで怪しい占い師(天本英世)に勧められた「自殺願望セミナー」に参加し、ビルの屋上から飛び降りる。その瞬間「ダ、ダーン!」と48号が松男を空中キャッチ。松男は48号の巨乳に顔を埋め、頭をナデナデ頬ずりされてイイ気持ちになる。これにより、24歳でようやく思春期を迎えた松男は、町で可愛い少女を見て、「ときめいている。ナンパ? いや、そんなことできない。いや、相手は中学生だ。ヤレルかもしれない」。いや、女子中学生はダメだって。
松男は部屋でペットの亀を48号に見せる。「俺の唯一の友達だよ。年中、甲羅の中に入りっ放し。俺、オマエの顔見た事ないんだよなあ......」。それを優しく見守る48号は、松男の敵を次々と退治していくが、次第に松男を溺愛するあまり狂い始める。そしてついに48号は、「ときめきネット」事務所でいつものように松男がまどかに叱られているところへ「ダ、ダーン!」と乱入し、まどかに迫る。必死になってまどかを48号から守ろうとする松男。松男とまどかは、実は相思相愛だったのだ。そんな松男を見て48号の動きが止まる。ここで「任務完了」と判断した総帥の計らいで、48号は小さな光る玉となり、「ピュッ」と松男の心の中に吸い込まれていく。「母親の思い出」として。
ラストはチンピラの兄貴分(蛭子能収)を前に「俺を好きにして下さい。この人は、俺のお嫁さんになる人です。金輪際この仕事はさせません」と啖呵を切り、激しいリンチに耐え抜く。ここで星のコンピューターが「自立」と表示。傷だらけの松男にヒッシと抱きつくまどか。ペットの亀も初めて甲羅から頭を出し、亀頭にビリビリと稲妻が走る(勃起の比喩、だよね?)。なんだ、今回はイイ話だ。
ビデオではビップとタイアップした形跡はないが、これはダメ男の心に効かせる栄養ドリンクだったのかもしれない。レジー・ベネットの台詞は「ダ、ダーン」しかなかったが、その微笑みに、その母性に、ビデオを見た全国のダメ男が癒されたのだった。