40年前のパリを活写した写真家・中平卓馬の「実験」とは

サーキュレーション―日付、場所、行為
『サーキュレーション―日付、場所、行為』
中平 卓馬
オシリス
5,400円(税込)
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 昨年12月の開店から半年がたった「代官山 T-SITE」。蔦谷書店を中心にしたスポットで、オープンイベントや告知をおこなわなかったことが逆に話題になりました。都会的なセンスの外観と内装に、居心地のよさを計算しつくしたフロア。本だけではなく、音楽、映画、文具、旅行商品なども用意されていて、自分の興味がどんどん広がっていく、魅力あふれる空間として認知されています。

 そんな蔦谷書店で写真家・中平卓馬の特別展示が行われています。写真集『サーキュレーション―日付、場所、行為』の刊行を記念したもので、同書に掲載されている257の写真の中から10点余が展示されています。

 中平氏は1971年、「第7回パリ青年ビエンナーレ」に参加。世界各国の若い芸術家たちが集まる国際展で、氏は「表現とは何か」を問う実験的なプロジェクトを敢行します。それが、最新刊のタイトルと同じ「Circulation:Date,Place,Events」。一日一日、自分が触れたすべてのものを写真に撮り、その日のうちに現像、プリントし、会場に展示するという試み。デジカメなんていうものがない時代に、彼は毎日200枚、一週間で計1500枚の写真を会場の壁に貼りつけたのです。苦行にも似た行為だったのではないでしょうか。

 街を行き交う人々、道路、車、メトロ、印刷物など、40年前のモノクロのパリがそこにはあります。「日付」と「場所」に限定された現実を無差別に記録し、ただちにそれを現実へと「循環(サーキュレーション)」させるという表現方法。彼はそのことを当時こう語っています。

「毎日毎日ぼくが撮り、展示する行為そのものが一つの表現なのであり、堆積された写真の群れなどはその結果、まさしく残滓にすぎないのだ」

 残りかすと呼ぶには、もったいないくらいの光と影が織りなすパリの風景。天才写真家の大胆な挑戦に思いをはせながら写真を見ると、また違う視点で写真を味わうことができます。

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