男女がケンカにならない話し方とは? 『「ひらがな」で話す技術』著者に聞く

『「ひらがな」で話す技術』の著者・西任暁子(にしとあきこ)さん

『「ひらがな」で話す技術』の著者・西任暁子(にしとあきこ)さんは、ラジオDJを15年間務め、現在はスピーチコンサルタントとして活躍中。毎回キャンセル待ちの超人気講座の講師として、会社経営者や弁護士など、人前で話す職業の人たちに話し方を指導しています。

 西任さんによれば「人は"ひらがな"で話を聞いている」といいます。そのことに気をつければ、もっと他人にわかってもらえる話し方ができるのだそうです。

「『相手の気持ちを考えて話そう』ということはよく言われることですが、その具体的な方法のひとつが『ひらがなで話す』ということです。これは、相手はあなたの言葉をひらがなで聞いているから、相手にどう聞こえているかを軸に考えようということ。たとえば、自分は『公園に行こう』という意味で言ったのに、相手は『講演に行こう』と思うかもしれない。音だけではわからないですよね。人はつい"心の矢印"を自分に向けてしまいますが、その矢印を相手に向けていこうよ、ということなんです」

 聞いている人の立場に立って話をするための「ひらがな力」。そのうえで、自分らしい自分の声で話すことも、よりわかりやすく伝えるポイントのようです。

「本来、人間の心と声は近い距離で表現できるはずなんですね。赤ちゃんが泣いてお母さんに訴えかけるのがいい例です。ところが大人になるにつれて、自分を守る鎧のようなものをいろいろと身につけてしまう。それが心と声を遠くしてしまいます。私がお伝えしているのは、余計なものをはがしていく作業なんです。個性というのはアドオン、つまり加えていくのではなく、彫刻のようにいらないものを削っていくこと。きっとカリスマ性のある人やリーダーシップを発揮する人は鎧をあまり身につけていない人なんでしょうね。心と声がすごく近い。だから、人に気持ちが伝わるわけです」

「話し上手は聞き上手」とよく言われますが、それだけでは今の現代社会で通用しないと西任さんはいいます。

「聞いているだけではダメで、聞いたあとは話さなきゃいけません。『きみはどう思う? きみならどうする?』そう聞かれたら今度は発信しなきゃいけない。それができないと残念ながら海外では『あいつは能力がない奴だ』と思われてしまいます。今は日本でも同じことです。『聞き上手』から『発信上手』になることが現代社会では求められています」

 SNSやブログなど文字で発信することは苦にならなくても、話すことが苦手な人は多いのが現実のよう。発信力を鍛えるためには、どうすればいいのでしょうか。

「苦手意識の深いところには、恐怖心があります。話をすると、相手の反応がリアルタイムで見えるから怖いんです。自分の存在や発言が受け入れられなかったらどうしようと無意識に恐れている。その自分に向かっている気持ちを、相手に向けることです。どうすれば相手が喜んでくれるか? わかってくれるか? 相手を思うほど、恐怖は薄れていきます」

話すことには慣れているように見える政治家については、こんな言葉を投げかけます。

「国民はみんなニュースや政治について、本当は知りたいんです。でも国会の中継を見ても難しい言葉がたくさん使われていて、『わかんない』から、参加せずに、政治に無関心になっていくのだと思います。ジャーナリストの池上彰さんのニュース解説は『わかる』から人気ですよね。政治家という職業が何のために存在するかということを考えると、すべての国民にわかるように話してほしいと思いますね。『ひらがなで話す』ことを考えてほしいなぁ、政治家の方にも(笑)」

さて、「ひらがな力」が恋愛に活かせるかも西任さんに聞いてみました。

「もちろん、活かせますよ(笑)。恋愛においてケンカするのは分かりあえないからじゃないですか。ムカッとしたときは本音をなかなか言葉にできないですよね。たとえば、女性が男性に対して、『なんで今日はこんなに仕事の帰りが遅いのよ!』って怒るとしますね。言葉ではこう言ってますが、ベースにある感情は"さみしい"なんですよ。でも、それに気づかないから男性も『おまえ何言ってんだよ。そんなこと言ったってなぁ...!』となって、言い合いになる。この場合、女性がこう言ったらどうでしょう。『なんで今日はこんなに仕事の帰りが遅いのよ...さみしかった』。ね、ドキッとしません? 女性も言い方を選びたいし、男性には女性の言葉の裏の気持ちを読み取ってあげてほしいですね」

相手の立場になって話す技術。これは大切な人との距離を縮めることなんですね。

「基本的に人間って、一人で生まれてきて一人で死んでいく。そんな孤独な人間が、人と繋がることは理解し合うことだと思うんですね。そのためのいちばん身近な手段が『話す』ということ。伝わりやすい話し方をすれば、人と人はもっと繋がっていけると思います」


<プロフィール>
西任暁子(にしと・あきこ)
大阪府生まれ、福岡県育ち。U.B.U.speech consulting代表。アメリカの高校へ留学した後、慶應義塾大学総合政策学部に入学。在学中に、大阪FM802でDJデビューする。生放送を中心に30以上の番組に出演し、インタビューを行ったゲストは、延べおよそ5000人。現在はスピーチトレーナーとして独立し、経営者やビジネスリーダーなど、プロフェッショナルのための話し方講座を開催している。歌手としても活動し、「言葉」と「声」の表現力を磨き続けている。

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