山崎隆之八段、とっさの四手角

左/深浦康市 NHK杯、右/山崎隆之 八段 撮影:河井邦彦
第70回NHK杯準々決勝第1局は、深浦康市(ふかうら・こういち)NHK杯選手権者と、山崎隆之(やまさき・たかゆき)八段の対局となった。小島渉さんの観戦記から、序盤の展開をお伝えする。


* * *


■とっさの四手角

深浦と山崎の初手合いから20年の時が流れた。これまでの対戦成績は深浦7勝、山崎6勝と拮抗(きっこう)し、山崎が3連勝中である。戦型は対抗形や相掛かり、角換わり系とバラエティに富んでいるも相矢倉は本局が初だ。山崎は相掛かりや角交換系を得意にし、じっくり戦う相矢倉は珍しい。ただデビューから3年ほどはがっぷり四つに組む矢倉の定跡形をよく指していた。
山崎将棋の魅力は独創性にある。本局は珍しい四手角、しかもその場でひらめいた作戦だというのだから驚きだ。近年は△7三桂から△6五歩の争点を与えないように先手は6七歩型を維持することが多く、それなら山崎は6筋の位を取る予定だった。だが、堂々の△6六歩で当てが外れた。もう持久戦の心構えなので、米長流急戦矢倉をする気にはなれない。とっさに思いついたのが四手角だった。△3三角~△5一角~△7三角のルートに比べると、本譜は角の動きで1手損しているものの、△8五歩を省略した分だけ角の転換が間に合うので一局だと判断したという。深浦の想定外は無理ないが、準備不足と省みた。


■山崎流の待機策

△4六角(2図)は△3六歩に備えている。△4五歩は積極的で、△7三角成なら△同桂から△8五桂△8六銀△6五歩△同歩△4四角が楽しみだ。△5七角と引かせて山崎は自信を持っていたが、いざ考えてみると6筋の守りが堅く構想が難しい。

 


△9三桂から△8五桂△8六銀△6五歩は△同歩で攻めにならず、△6四角~△7三桂~△6五歩は次に厳しい攻めがない。
そこでひねり出したのが△6一飛で、△2六銀からの端攻めを△4一飛(3図)で牽制(けんせい)する狙いだった。深浦は玉飛接近にスキありと端を果敢に攻める。

 


解説の渡辺明名人は先手持ちだったが、△4六歩に「山崎さんは目のつけどころが違う」と感心した。
△同歩なら△1三香が痛打になる。深浦は△4六歩も承知の上で、と金を作らせても攻め合いを挑めば分があると判断していたが、のちに誤算があり「△1四歩は暴発」と振り返った。
だが山崎がソフトで検証すると、△1四同香に代えて△3五歩△同歩△2四歩だと先手ペースという。以下△同銀△3五銀△同銀△同角△2七銀△1四香と猛攻すれば玉飛接近がたたる。
山崎「なので△6一飛の構想はよくないです。ソフトは△4三金右からじっくり指すのを推奨してましたが、堂々と受ける展開なので指しにくいですね」実戦派の山崎であってもソフトの読みを調べる時代なのだ。評価値が頭にちらつくと斬新な指し回しを思いついても躊躇(ちゅうちょ)してしまうのではと聞いたが、そこまでソフトを使いこなせていないから影響はないそうだ。
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2021年4月号より

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