山下敬吾九段と高尾紳路九段、「相性の悪い棋戦」で激突
- 左/山下敬吾九段、右/高尾紳路九段 撮影:小松士郎
第68回 NHK杯 準々決勝 第1局は、山下敬吾(やました・けいご)九段【黒】と、高尾紳路(たかお・しんじ)九段【白】の対局となった。松浦孝仁さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。
* * *
■不思議すぎる…
碁界に七不思議というものがあるとすれば、実際にあったためしはないのだが、そのうちの二つには少なくとも山下敬吾九段と高尾紳路九段が絡んでいる。一つ目。七大タイトル戦において山下対高尾による挑戦手合はいまだかつて実現していない。平成四天王とも呼ばれているだけあって両者は年も近く(山下42 歳、高尾44歳)、タイトル獲得を量産した時期もそれほど離れているわけでもないのに。
二つ目。それはNHK杯での成績だ。なんと、二人は優勝経験がない! これは私も知らなかった。決勝進出さえもない。山下の「早碁苦手説」は以前から流れてはいたが…。確かに、本人さえも理由が分からない「棋戦との相性の悪さ」は存在するらしい。山下は七大タイトルのうち、十段位だけ手が届いていない。ちなみにタイトル総獲得数60、挑戦手合で勝ちまくった感のある小林光一名誉棋聖は、本因坊戦と王座戦に縁がない。それぞれを合わせ計6度挑戦しているにもかかわらずだ。相性と言うほかないだろう。
NHK杯に相性の悪い二人が準々決勝で顔を合わせた。勝てばベスト4。恐らく念願の、初優勝が見えてくる。対戦成績は山下29勝、高尾27勝ときっ抗している。
■怪力発揮の舞台へいざなう
黒番の山下は、2回戦の伊田篤史八段戦で「白番・5の五」、3回戦の上野愛咲美女流最強位(放送時)戦では「白番・天元」を用いた。コロナウイルスを吹き飛ばそうとのメッセージにも思える。本局でもやってくれた。
初手は2回戦と同じく「5の五」のポジション。右上の黒1だ。白2には黒3とまか不思議な地点に構えた。かつて白江治彦八段が愛用していたことでも知られ、高目から一路隅から離れるため、「大高目」と呼ばれている。
「高尾さんにしてみれば、きたか!という感じだと思います」と解説の結城聡九段。二連星から白6と黒の懐に早速飛び込んでいく。右下に、地よりも中央での戦いを意識した黒3、5の変則シマリがあるからこその着点だ。右辺を消すことを重視している。
黒は7と隅への侵入を阻む。白8の二間ビラキを待って、山下は黒9のカケへ。私としては驚きの一手だった。右下に勢力が控えて味をカバーできる。ただし、白にポン抜きを与えたマイナス面も無視できない。
結城九段「黒19は1図の黒1とこちらに切りを入れるのも有力でした。白2、4なら黒5と切り離します。黒11まで黒攻勢です」
白20で2図の白1にツグと黒2がより厳しくなる。白3、5の切断は成立しない。
白24のツケに黒25はしかたがない。3図の黒1では白2から6まで真っ二つにされる。
白26にヒラいて好調と常人は考える。右辺の白はポン抜きを得たため、攻めは利きそうにない。白34の補強も加わっている。ただし、盤上の山下は常人離れの怪力の持ち主ということを忘れてはいけない。黒35、37の強硬手段を繰り出した。白38は続いて4図の黒1なら白2、4の予定。山下はそれを黒39、41と拒否して白42を誘う。黒43と白を三分し、どこかをしとめるつもりだろう。
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年4月号より
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■不思議すぎる…
碁界に七不思議というものがあるとすれば、実際にあったためしはないのだが、そのうちの二つには少なくとも山下敬吾九段と高尾紳路九段が絡んでいる。一つ目。七大タイトル戦において山下対高尾による挑戦手合はいまだかつて実現していない。平成四天王とも呼ばれているだけあって両者は年も近く(山下42 歳、高尾44歳)、タイトル獲得を量産した時期もそれほど離れているわけでもないのに。
二つ目。それはNHK杯での成績だ。なんと、二人は優勝経験がない! これは私も知らなかった。決勝進出さえもない。山下の「早碁苦手説」は以前から流れてはいたが…。確かに、本人さえも理由が分からない「棋戦との相性の悪さ」は存在するらしい。山下は七大タイトルのうち、十段位だけ手が届いていない。ちなみにタイトル総獲得数60、挑戦手合で勝ちまくった感のある小林光一名誉棋聖は、本因坊戦と王座戦に縁がない。それぞれを合わせ計6度挑戦しているにもかかわらずだ。相性と言うほかないだろう。
NHK杯に相性の悪い二人が準々決勝で顔を合わせた。勝てばベスト4。恐らく念願の、初優勝が見えてくる。対戦成績は山下29勝、高尾27勝ときっ抗している。
■怪力発揮の舞台へいざなう
黒番の山下は、2回戦の伊田篤史八段戦で「白番・5の五」、3回戦の上野愛咲美女流最強位(放送時)戦では「白番・天元」を用いた。コロナウイルスを吹き飛ばそうとのメッセージにも思える。本局でもやってくれた。
初手は2回戦と同じく「5の五」のポジション。右上の黒1だ。白2には黒3とまか不思議な地点に構えた。かつて白江治彦八段が愛用していたことでも知られ、高目から一路隅から離れるため、「大高目」と呼ばれている。
「高尾さんにしてみれば、きたか!という感じだと思います」と解説の結城聡九段。二連星から白6と黒の懐に早速飛び込んでいく。右下に、地よりも中央での戦いを意識した黒3、5の変則シマリがあるからこその着点だ。右辺を消すことを重視している。
黒は7と隅への侵入を阻む。白8の二間ビラキを待って、山下は黒9のカケへ。私としては驚きの一手だった。右下に勢力が控えて味をカバーできる。ただし、白にポン抜きを与えたマイナス面も無視できない。
結城九段「黒19は1図の黒1とこちらに切りを入れるのも有力でした。白2、4なら黒5と切り離します。黒11まで黒攻勢です」
白20で2図の白1にツグと黒2がより厳しくなる。白3、5の切断は成立しない。
白24のツケに黒25はしかたがない。3図の黒1では白2から6まで真っ二つにされる。
白26にヒラいて好調と常人は考える。右辺の白はポン抜きを得たため、攻めは利きそうにない。白34の補強も加わっている。ただし、盤上の山下は常人離れの怪力の持ち主ということを忘れてはいけない。黒35、37の強硬手段を繰り出した。白38は続いて4図の黒1なら白2、4の予定。山下はそれを黒39、41と拒否して白42を誘う。黒43と白を三分し、どこかをしとめるつもりだろう。
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※段位・タイトルは放送当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2021年4月号より
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