定年後は月にいくら稼げば安心? 60~80歳の「仕事の実態」を豊富なデータから読み解く

ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う (講談社現代新書)
『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う (講談社現代新書)』
坂本 貴志
講談社
1,012円(税込)
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 この30年間ほぼ横ばいの平均年収に、物価の上昇、年金支給額の減額......現在の日本の状況を考えると、老後の生活に漠然とした不安を抱いている人は多いと思います。実際、現在の若年層や中年層が65歳以上になったとき、果たして豊かで不自由ない毎日を送ることはできるのでしょうか?

 まず、少子高齢化で生産年齢人口が減少する中で、定年後も働き続けることは今後ますます当たり前になっていくようです。けれど、そこで自分にどのような仕事があり、どういった働き方ができるのかは、はっきりと想像できない人も多いでしょう。こうした、これまであまりスポットライトを浴びることがなかった「定年後の仕事の実情」について、豊富なデータや事例をもとに読み解くのが書籍『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(坂本貴志さん著)です。

 同書は3部での構成。第1部では、さまざまなデータから定年後の実態が15の事実としてまとめられています。たとえば「年収は300万以下が大半」「純貯蓄の中央値は1500万円」「70歳男性就業率45.7%。働くことは『当たり前』」など、こうした実態を知るところから始まります。収入自体は低下するものの、子どもの教育費や住宅費負担などがなくなる人が多いため、支出も減ることがほとんどのようで、「定年後は年金に加えて月10万円ほど労働収入があれば家計は十分に回る」(同書より)と著者は言います。体感的に、この程度の金額であれば無理なく稼げそうだと感じる人も多いかもしれません。

 続く第2部では、実際に定年後に就業している7人の事例を紹介。ここでは、データの平均的な就業者像に合致する人たちに話を聞いていることと、就業者の仕事内容だけでなく心の変化にも着目しているのが特徴です。仕事に大きなやりがいと責任を感じてきた人にとっては、定年前後に訪れるキャリアや能力の大きな変化にどう向き合っていくのかも大切なポイントになることがわかります。

 さらに第3部では、定年後の仕事に向けて、一人ひとりの就業者ができることについて考察しています。同書を通じて浮かび上がってくるのは、「定年後の『小さな仕事』を通じて豊かな暮らしを手に入れている人々の姿」(同書より)。著者は、「定年後に働くことは所与として、そうした状況下でどのように働くかを考える。こうした姿が多くの日本人が直面する現実になるだろう」(同書より)と記します。

 人生100年時代。良くも悪くも、定年後もまだまだ長い人生があることを考えると、働いて社会とつながっていくことは今後必要不可欠となっていくようです。その上で、どのような働き口や働き方があるのか、月々どのぐらい稼げるのか、今からどのような準備をしておくべきかなどを知っておくことが安心につながります。老後の備えのひとつとして、同書を読んでおいて損はないのではないでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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