「メタバース」とは何か 大きなビジネスチャンスにもなる"もう一つの世界"を専門家が解説
- 『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」 (光文社新書 1179)』
- 岡嶋 裕史
- 光文社
- 902円(税込)
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ここ最近「メタバース」という言葉をよく耳にします。なんとなく今後重要になるだろうことは想像できるものの、興味のない人からすると、まず何を指して「メタバース」と呼んでいるのかも曖昧です。
実は「メタバース」の定義はまだ決まっておらず、専門家でも解釈がさまざまです。言葉自体は「メタ」(超越)と「ユニバース」(宇宙)を合わせた造語であり、主に「VR(仮想現実)」や「AR(拡張現実)」などを通した没入体験を実現するテクノロジーやサービスの総称とも言われています。
これだけでも「何が何やら......」と混乱する人も出てくるでしょう。でも諦めるのは少し待ってください。中央大学国際情報学部教授・岡嶋裕史さんの著書『メタバースとは何か:ネット上の「もう一つの世界」』を読むと、思っているより難しいものではないと感じるはずです。
同書では「メタバース」を「現実とは異なる理(ことわり)で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」と解釈しています。岡嶋さんは自身のことを「リアルで生きるのが苦手な人間」「人生が下手くそ」と評価しており、ゲームをすることで仮想現実に救われているといいます。
「リアルでうまくやっていたり、リアルの生活に親和性の高い資質を持っている人には、ぴんとこない話だとは思うが、すごくいいぞ」(同書より)
「『ゲームばかりして』と怒られることの多い人生だったが、『メタバースに住んでいるのだ』と言えばなんだか最先端である」(同書より)
では、リアルでつらい思いをしている人々を慰めるためにメタバースが必要なのかというと、そうとも限りません。岡嶋さんはこうも記しています。
「マイナスのものをニュートラルにする発想自体がもう古いかもしれない。リアルでうまくやれていても、メタバースにより可能性や楽しさを見いだして移住する人もいる。
『自分が活躍したり、寛いだりする場所は、必ずしもリアルでなくていい』と言えるほどには、メタバースは現実になっているのである」(同書より)
メタバースには大きなビジネスチャンスがあるといいます。「フェイスブック」が社名を「メタ」に変更したのも、メタバースが次のキラーサービスになると踏んで、「メタバースでの存在感を確立したいからに他なりません」と岡嶋さんは解説します。
「メタバースを巡る覇権争いで勝ち名乗りを上げた企業は、次の10年を統べることになるでしょう。それは営利企業にとって喉から手が出るほど欲しい果実に違いありません」(同書より)
ビジネスチャンスは世界をけん引する大企業だけの話ではありません。YouTubeなどで活躍する「VTuber」を思い出してみてください。彼ら彼女らは、2Dまたは3Dのアバターを使用しており、事務所に所属していることも多いですが、ヴァーチャルに生きる一個人です。
Webサイト「PLAYBOARD」によるYouTube内のスーパーチャット(投げ銭)世界ランキング2021年では、上位10人中9人をVTuberが占めており、1位の「潤羽るしあ」さん(2022年2月に活動終了)は2億万円越えをたたき出しています。
「広告収入などは抜きにして投げ銭だけでこれだけの金額が動いたのである。人は仮想現実内で形成された仮想の価値に、すでにそれだけのリアルマネーを注ぎ込んでいる」(同書より)
「YouTube」のように、高度なもう一つの世界を作り出すのは大企業かもしれません。しかし「VTuber」のように、ユーザーが生み出せるコンテンツもたくさんあるでしょう。今後のためにもメタバースをいち早く理解し、新しいアイデアを出せれば、一個人でも大金を稼げるかもしれません。夢の広がる話です。ただし、留意すべき点もあります。
「もう一つの世界は、リアルとは違う理で動いている。だから、リアルでの格差はいったんリセットされる。そこまではいい。でも、世界である以上、平等ではない。(中略)もう一つの世界に移住すれば必ず幸せになれるわけではない。むしろ、自然状態では、もう一つの世界でも発揮すべき能力がなく、なじめず、敗北感と疎外感に打ちひしがれる人を大量に生むことになるだろう」(同書より)
これへの対策も同書には書かれていますが、まだまだ模索すべき点も多いようです。
同書ではほかにも、人気ゲーム『フォートナイト』や『あつまれ どうぶつの森』、人気作品『ソードアート・オンライン』などを用いて「メタバース」を詳しく解説しています。「なぜ今メタバースなのか」や「GAFAMのメタバースへの取り組み」の章もとても興味深いです。専門的な内容もありますが、知識が少ない人でもわかりやすいように解説されています。
「メタバース」は、今はよくわからないものであっても、私たちの生活を便利にするサービスがこれからどんどん登場するでしょう。それらを活用するためにはまず「知ること」が重要になります。先んじて学んでおけば今後それが主流になったとき、二の足を踏むことなく恩恵を受けられる可能性が高まります。そのための参考図書として同書は最適な一冊です。
[文・春夏冬つかさ]