映画の倍速視聴は作品に対する冒涜では? 現代の視聴スタイルから消費社会の実態を解き明かす

映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形 (光文社新書)
『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形 (光文社新書)』
稲田 豊史
光文社
990円(税込)
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 巷で増えている、映画や動画を早送りで観る人たち。現在、Netflixでは視聴する際に0.5倍、0.75倍、1倍(標準)、1.25倍、1.5倍と再生速度を選べる機能があるほか、再生画面には「10秒送り」「10秒戻し」ボタンもあります。YouTubeなど他の動画配信サービスにも同様の機能が搭載されているのは、みなさんもご存じでしょう。

 「映画を早送りや倍速で観るなんて、いったいなんのために? それで作品を味わったといえるのか?」――そんな疑問と違和感から、現代の映像コンテンツの受容のされ方や巨大な消費社会の実態についてまとめたのが、稲田豊史さんが著した『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』。同書はビジネスサイト「現代ビジネス」に執筆した記事9本をベースに、多くの追加取材をおこない、全面的な加筆・改稿を施した一冊です。

 倍速視聴をする人たちは全体的に増えているものの、そのなかでも多いのが若い世代。著者が大学生128名を対象におこなったアンケートによると、倍速視聴を「よくする」「ときどきする」と答えた学生は全体の66.5%という結果になったそうです。なぜこれほどまでに若者たちの間で倍速視聴をする人が増えているのでしょうか。

 そのひとつとして著者が挙げているのが「タイパ」です。「タイパ」あるいは「タムパ」とは、「タイムパフォーマンス」のこと。時間的なコストパフォーマンスを求める人が増えたことが、その背景にあると著者は分析します。

 たとえばYouTube上に多数存在するのが、映画一本を数分から十数分程度の動画で解説する「ファスト映画」。投稿者は映画の動画データを勝手に編集して短くまとめアップロードしているため、これは違法であるとともに、ダイジェストの質が担保されていない問題も出ています。しかし、「作品を鑑賞する」のではなく「ストーリーさえわかればいい」という意識の人たちからしてみれば、タイパの面でファスト動画は便利なのでしょう。

 Netflixなどの倍速視聴に対しても、「連続シリーズものは長い、話数が多いから最初から2倍速で観る」「鑑賞ではなく情報収集目的で観る場合は倍速」といった声があがったそうです。これらからわかるのは、ファスト映画や倍速視聴の動機の大半が「時短」「効率化」「便利の追求」であるということです。

 また、Netflixを始めとするサブスクリプションの場合、月額料金が自動引き落としで、なおかつ一定範囲内の作品を自由に観られるため、ぞんざいに扱ってもそれほど抵抗感がないという点も見過ごせません。大したコストをかけずに大量の作品が観られる環境であるため、『倍速視聴は作品に対する冒涜ではないか?』などという罪悪感を抱くことはない」(同書より)と著者は言います。

 他にもさまざまな視点から考察されている同書。これを「中年世代特有の若者批判」ととるか、「効率最優先な現代社会への警鐘」ととるかは読む人次第です。ただ、膨大な量のコンテンツが今の時代どのように消費されているのか、私たちもいま一度考えてみることが必要なのかもしれません。

[文・鷺ノ宮やよい]

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