女性写真家が描き出す、末期癌の夫との「生」の記録

降伏の記録
『降伏の記録』
植本一子
河出書房新社
1,900円(税込)
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 これまで『かなわない』や『家族最後の日』などで、母との絶縁や夫との関係性について赤裸々に書いてきた植本一子さん。彼女による最新作が『降伏の記録』です。

 植本さんは広告や雑誌などで活動する写真家。24歳年上の夫でありラッパーでもあるECDさん(石田義則さん)との間にはふたりの子どもがおり、そして現在、ECDさんは末期癌をわずらい闘病中です。

 本書の大部分は、2016年11月から2017年7月の間に書かれた植本さんの日記をまとめたもの。そこには繰り返される夫の入退院、絶縁したはずの実家から届く手紙や荷物、けっして投げ出すことのできない子育ての日々などが描かれています。

 そんな過酷ともいえる状況のなか、植本さんはあることに気づきます。それは夫の石田さんとの決定的なすれ違い。コミュニケーションを求めても、けっして認められない、受け入れられることがないという絶望的な思いです。

 結婚後、他に恋人を作った植本さんがそれを原稿に書いても「よく書けているね」と褒める夫。植本さんが子育てで孤独におちいり地獄のような日々を送っていたときも向き合おうとしなかった夫。植本さんはこれまでこうした部分に対し、「自分の結婚が失敗だったと思いたくない」「どこかで石田さんのことを物分かりのいい人だと思いたかった」との思いからどこか気づかないようにしてきたといいます。

 けれど夫が末期癌になり、それでもなお夫にやさしい気持ちを持てず、精神的にギリギリの状況まで来て、ようやく自分の本当の気持ち、夫との関係性について見つめ直すこととなった植本さん。書くことで自分の思いを放出する以外、彼女にはもはや方法がなかったのかもしれません。

 植本さんの他の著書もそうですが、読んだ人の評価はかなり賛否両論。けれど、ふつうの人であれば隠しておきたくなるような人間の醜い部分、あかるみにしたくない部分をさらけ出し、それを出版して公表するということは、なかなかできることではありません。好きにせよ嫌いにせよ、きっと人々はそこに惹きつけられるのではないでしょうか。

 しかし、日記形式の大部分は序章に過ぎないといえるかもしれません。巻末におさめられタイトルにもなっている「降伏の記録」こそがメイン。そこには写真家・植本一子というレンズを通して嘘いつわりなく映し出されたある夫婦の姿があります。夫婦とは何か。家族として暮らすとはどういうことか。ぜひ皆さん自身で読んで、考えていただきたいところです。結婚している人、パートナーがいる人にとっては、あまりに大きく大切なテーマを投げかけられた気持ちになり、しばらく茫然としてしまうに違いありません。

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