本当に死ぬかもしれない「死ぬほど旨い料理」があったら、あなたは食べる?

ボトムレス
『ボトムレス』
拓未 司
NHK出版
1,620円(税込)
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 「死ぬほど旨い料理」を出す店があるという噂を耳にしたら、あなたはどう思いますか?飽食の時代と言われて久しい日本ですが、人々の食への欲求は飽きることなく続いているように見えます。行列のできる店はなくなりませんし、星の数で店の優劣を表わすレストランガイドも人気です。B級グルメの祭典やデパ地下は大勢の人でにぎわっています。「死ぬほど旨い」という噂があったら、おそらくみな、興味をそそられるのではないでしょうか。

 『ボトムレス』の登場人物たちは、一人、また一人とその噂に導かれて、レストラン「HOLE」にたどりつきます。古めかしい外観に、鬱々として息苦しい店内。陰気で冷たい風貌で、首筋がぞくりとするような不快な声をもつ年老いたウエイター。訪れた客は誰しも薄気味悪さを感じつつ、「死ぬほど旨い料理」について尋ねます。そして返ってくる言葉は、「当店にございますのは、食べると死ぬかもしれない料理でございます」。

 その料理を食べようとするのは、辛口批評で名を挙げた美食家、腕に自信はあるが経営に苦しむ料理人、大食いでタレントデビューを目指すアルバイト店員、ロハス生活を続けるアラフォー女子など。年齢も職業もさまざまな面々が、人生を翻弄されることになります。

 ボトムレスとは、「底なしの、際限のない」という意味です。そんなタイトルの物語に出てくる「穴」という名のレストラン。どちらの言葉も、人間の欲というものと重ねあわせてみると、なんとも意味深です。

 同書の作者は、第6回「このミステリーがすごい!大賞」受賞をきっかけにデビューした拓未司。フランス料理店に勤務した経験をもち、デビュー作もシェフを主人公とする作品でした。

 その拓未司さんは近ごろ、自身のブログでこの作品を最後にしばらく「料理系」は書かないと宣言しました。「ボクの料理系が好きな方には申しわけないのですが、『タクミツカサといえば料理系』と言われたくないんです。もっともっと幅を広げたいんです」。

 この心意気、作者自身の探究心もまた「ボトムレス」と言えるのかもしれません。

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