【無観客! 誰も観ない映画祭 第46回】『恐怖人形』
- 『恐怖人形』
- 宮岡太郎,今野義雄,中西研二,龍原正,茂木徹,本郷達也,平野貴之,奥山雄太,青山悠希,小坂菜緒,萩原利久,黒羽麻璃央,近藤雄介,水上京香,石川瑠華,福島雪菜,黒沢あすか,粟根まこと,萩原聖人
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『恐怖人形』
2019年・86分
監督/宮岡太郎
脚本/奥山雄太、青山悠希
出演/小坂菜緒、萩原利久、萩原聖人、黒沢あすか、黒羽麻璃央、粟根まことほか
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今回は夏休み納涼企画「怪談」。しかも当コラムに相応しく、映画評論家も語らないジャパニーズホラーです。チャッキーやアナベル(死霊館シリーズ)などの人形ホラーに、『13日の金曜日』といった「キャンプ物」をプラスした『恐怖人形』ですが、もう少しタイトルに捻りが欲しかったですね。映画初主演の小坂菜緒は、公開当時は日向坂46で3曲連続という不動のセンター。現在流れているソニー損保のCMガール(齋藤飛鳥じゃない方)です。その相手役は、今や売れっ子俳優となったブレイク直前の萩原利久。
女子大生の由梨(当時17歳の小坂菜緒)と幼馴染みの真人(萩原利久)に、「パーティー参加者には10万円贈呈」と書かれた差出人不明の招待状が届きます。出発の朝、由梨が玄関を開けると、正面の手スリに赤い和服を着たオカッパ頭の不気味な人形が立て掛けられていました。待ち合わせ場所の弟切駅前に8人の男女が集合します。架空のローカル駅ですが、語源になった弟切草の花言葉は「怨み、復讐」......。真っ先に由梨をナンパしてきた亮太(以後、チャラ男と呼びます)には、後に桜井ユキと結婚する黒羽麻璃央。ほか自己チューで派手な外見の玲奈(以後、ハデ)。その逆に控えめで地味なまどか(以後、ジミ)。クールに喫煙するキャバ嬢・美咲(以後、キャバ)。トイレから戻ってきた頻尿の徹(以後、ヒンニョー)。なぜか1人だけ混ざっているオヤジは、萩原聖人演じる北沢。不愛想なオバサン(黒沢あすか)が、熊の出る森にあるキャンプ場へ車で連れて行きます。オバサンは主催者に頼まれて場所を提供したキャンプ場の管理人で、約束通り8人に10万円を渡すのでした。
パーティーが始まる深夜0時までメンバーが河原で時間を潰していると、全員が10年前の夏休みにここへ来ていたことを思い出します。北沢のオヤジは当時の引率係でした。管理人室で見つけた自分達の来館者アルバムを見ながらワイワイ懐かしんでいると、「あれ、こんな子いた?」。一人だけ暗い顔した女の子の写真に皆が首を傾げます。由梨が「よし子ちゃん?」と思い出した途端チャラ男の顔色が変わり、抱いている日本人形に気付いた他のメンバー達も青ざめます。出かける前に由梨と同様、各自の玄関前に同じ人形が置いてあったのです。ハデが「よし子の悪戯?」と言うと、彼女と同じ団地に住んでいたキャバが「それはない......よし子は死んだから」。
キャンプ場の門で由梨が撮った写真にも人形が写り込んでいて、ジミが「もう、いや!」とパニクって外へ飛び出そうとドアを開けると、そこには「ドーン!」(効果音)とその人形! しかも5歳児ぐらいの大きさになっています。すると白髭を生やしメガネをかけた金八先生みたいな(髪型と服装が一緒)怪しい男が現れ、「やっぱりあったんだ! 呪いの人形が!」。男は呪物を集める呪い研究者の和田教授(劇団☆新感線の粟根まこと)と名乗り、部屋を取りその人形を喜々として持ち去ります。オカルトコレクターの田中俊行(知らない人はググってください)みたいな? 教授は部屋で人形をテーブルの上に緊縛し「さあ、もっと僕を恨め〜!」とスタンガンを押し付け、五寸釘を打ち付けたりと、いったい何をしたいのか変態にしか見えません。
さて、アメリカのキャンプホラーは必ず盛りの付いた若者が乱れまくりますが、アイドル主演映画だからか中々やりません。と思っていたら、皆がバーベキューをしている間、部屋に残ったハデとジミが一心不乱に唇を貪り合い、ソファーの上で華麗なる百合の世界が展開。斜め上を行かれました。だが一戦終わって2人がスッキリしていたところへ「ドーン!」と人形。しかも四頭身のまま2メートルぐらいに巨大化していて、2人とも斧で惨殺されるのでした。
日も暮れ、キャンプ場ではキャンプファイヤーの炎を見つめる由梨に10年前の記憶が蘇ります。キャンプファイヤーを囲んで由梨と真人以外のメンバーが「ハッピバースデー、トゥーユー」と歌いながら、「返して! 返して!」と叫ぶよし子から奪った人形をパスし合っています。イジメです。由梨と真人はそれを止めようとしますが、チャラ男が人形を火に投げ込んでしまいます。それを見たよし子は「あ゛ー! あ゛ー!」と、この世のものとは思えない物凄い叫び声を上げるのでした。よし子は帰宅後に精神を病んで寝たきりになり、昨年息を引き取ったというのです。よし子の呪い人形は立て続けにメンバーを襲い、立ちションしていたヒンニョーは背後から有刺鉄線で首を絞められ、キャバは熊の罠に足を挟まれたところをフォークでメッタ刺し。チャラ男は剣道初段だけに焚き木で応戦するも倒され、イジメとは無関係の教授はチェーンソーで仕返しされます。そして森へ走る由梨をチェーンソー持った人形が追いかける構図は完全に、説明不要の名作ホラー『悪魔のいけにえ』(74年)の名シーンでした。
転んで気を失った由梨が目を覚ますと、管理人室でロウソクが灯る食卓の椅子に縄で縛られています。テーブルには同じように殺害死体も含めてメンバー全員が座らされ、上座には女児のミイラ......よし子です。ここも『悪魔のいけにえ』の1シーンですね。深夜0時、まさに死んだ子の歳を数えるよし子の誕生日パーティーが始まり、人形がケーキを運んできます。隣室には縛られた管理人が倒れていて、てっきり彼女はよし子の母親で、復讐するため当時のメンバーを集めたのかと思っていたら違いました。由梨は勇気を振り絞り人形を突き飛ばすと、よし子のミイラにぶつかり床に頭や手足が散乱します。それを慌てて拾い上げる人形の背後から由梨が金槌で思いっきり頭を叩くと、人形の首が外れて転がり、顔を晒したのは北沢のオヤジでした! よし子の父親が引率の北沢に成りすましていたのです。
由梨は人形に怪我を負わされた真人を抱えて外へ逃げますが、よし子パパはわざわざ面を被り直し、レザーフェイスのようにチェーンソーを振りかざして追いかけて来ます。2人が力尽きてへたり込んだところへ「バキューン!」。おお、猟銃構えているのは管理人でした!
最後に美味しいところを持っていった管理人役の黒沢あすかは、様々な映画やドラマに出演している名脇役。そして実はその旦那さんは、当作品の恐怖人形を作った梅沢壮一でした。2007年の『TVチャンピオン』第7回特殊メイク王選手権の優勝者で、不気味さはミーガンにも負けていないと筆者は評価します。ドアを開けたら「ドーン!」と巨大日本人形が立っていたら、筆者なら腰抜かしますね。ただしここ、怖さと笑いが同居した不思議なインパクトでしたが。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。