高齢者がトイレで突然死? "何気ない行動に潜む恐ろしい死因"を法医学者が徹底解説
- 『こんなことで、死にたくなかった: 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」 (単行本)』
- 高木 徹也
- 三笠書房
- 1,600円(税込)
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"ヒートショック"をはじめ、日常の些細な行動が命の危険につながるケースは少なくない。特に高齢者になると軽い衝撃でも身体に大きなダメージが残りやすく、最悪の場合はそのまま命を落としてしまう。
「大切な家族や友人を突然亡くしたくない」「思わぬ落とし穴から自分の身を守りたい」という人にこそ読んでもらいたいのが、今回紹介する書籍『こんなことで、死にたくなかった:法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)だ。
同書の著者である高木徹也氏は、東北医科薬科大学で教授を務める法医学者。これまで5000体以上の遺体を解剖してきた死因解明のプロフェッショナルで、ドラマや映画などで医療監修も多数おこなっている。
彼が"日常に潜む死の危険"としてまず挙げたのは、「熱いお茶を飲んで死ぬ」という信じられないような事例だ。
「熱い飲食物は『食道がん』になる危険性を高めるという研究結果が数多く報告されています。日常的に熱い飲食物を摂取していると、食道が刺激を受け、食道粘膜の細胞が変異して、がん化する可能性があるのです」(同書より)
高齢者は温度の高さを感知する神経の働きが鈍くなっているために、高温な飲み物を飲み込むのにそれほど抵抗がない場合が多い。その結果、知らず知らずのうちに食道を刺激し続けてしまうのだという。
また、熱いお茶が引き起こす危険は食道がんだけではない。飲食物とともに細菌が気道へ入り炎症を起こす、"誤嚥性肺炎"にも注意が必要だ。
「もともと高い温度の飲料水は、身体にとって『飲みこみやすいもの』と判断されるため、誤嚥しやすいのです。そのうえ歳を重ねると、微細な脳梗塞によって、『むせ』症状が出ることなく、簡単に気道内に流入してしまいます。
そのため、熱いお茶ばかりを飲んでいると、誤嚥による気管支炎から肺炎を起こしてしまう可能性があるのです。そして、その肺炎が重篤化すれば、呼吸困難や敗血症に至って死んでしまいます」(同書より)
高木氏いわく、お茶は入れたてではなく、60度ほどに冷ましたものを飲むようにするのがおすすめだという。加えてこまめな歯磨きや入れ歯の手入れ、歯周病治療なども怠らず、口腔内をきれいに保つことも重要だ。
日常に潜む危険は他にもある。例えば高木氏が受ける依頼で、「高齢者の遺体が自宅のトイレから出たところで見つかった」というケースは少なくない。一見すると事件性を疑いたくなるものだが、多くはトイレでの"きばり"が原因で亡くなっているのだ。
高齢者はさまざまな理由から腸の動きが鈍化しやすいので、便が腸内に長く留まり硬くなって排出しづらい傾向にある。さらには便意を感じにくくなったり、排便時に必要な筋肉が弱まり便をうまく押し出せなくなったりすることも。つまり、便秘状態になりやすい。
「このような理由から、高齢者はトイレで長い時間『きばる』のです。
きばれば血圧は上昇し、脳血流が増加。これにより、動脈硬化の進行によって脳に形成されていた動脈瘤が破裂して、脳血管系疾患を起こすことがあります」(同書より)
トイレできばる機会を減らすためにも、普段から便通をよくする食事を心がけることが大切だと高木氏は主張する。慢性的に便通の悪さを感じているなら、早めに医師と相談しておこう。
なお、健康的な生活を送っている高齢者であっても油断は禁物だ。例えば高木氏が担当した案件の中には、ペットに咬まれたことが原因で死亡してしまうケースもあったという。
「実際に、飼っていた小型犬に腕を咬まれ、その3日後に死亡した高齢者を解剖する機会がありました。傷口は化膿していて、腕全体が赤く腫れている状態でした。解剖で詳細な検査を行なったところ、本来は無菌なはずの血液から細菌が検出されたことから、死因を『犬咬傷にもとづく敗血症』と判断しました。
警察の調査によると、咬まれた直後は『傷がそれほど深くないから』と消毒を行なわず、また病院にも行かなかったとのこと。飼い犬は室内飼育で、狂犬病の予防接種も受けていましたが、それでも犬の口の中に潜む細菌が感染してしまったのです」(同書より)
飼い犬の他に、飼育していた鳩から感染した「オウム病クラミジア」と呼ばれる細菌が原因で、重度の肺炎と心不全になった高齢者もいる。例え家族として大切に飼育していても、動物の世話にはさまざまな感染リスクがつきものだ。
「そもそも、高齢者は免疫機能が低下しています。そのため、病原性の低い微生物でも症状を発生させてしまう『日和見感染』の可能性があり、何事も油断できません」(同書より)
同書を読んでいると、まさに「こんなことで!?」と驚いてしまうほど予想外な理由で人間は命を落としかねないことがわかる。自分、そして周りの人のためにも、日常に潜む危険から身を守るための知識を身につけてみてはいかがだろうか。