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【無観客! 誰も観ない映画祭 第35回】ロジャー・コーマン追悼企画その4 『デス・レース 2000年』

デス・レース2000年 HDニューマスター/轢殺エディション [Blu-ray]
『デス・レース2000年 HDニューマスター/轢殺エディション [Blu-ray]』
デヴィッド・キャラダイン,シルヴェスター・スタローン,ポール・バーテル
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〜追悼 「B級映画の帝王」ロジャー・コーマン〜
今年5月9日、「B級映画の帝王」「低予算映画の巨匠」といった異名を恣(ほしいまま)にしたハリウッドの名プロデューサー、ロジャー・コーマンが死去しました(享年98歳)。『アッシャー家の惨劇』(60年)などのエドガー・アラン・ポー原作作品を数多く手掛け、無名時代のジャック・ニコルソンが出演していた『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(60年)、デヴィッド・キャラダイン主演でブレイク直前のシルベスター・スタローンも出ていた『デス・レース2000年』(75年)など、SF・ホラー・アクションを中心に300本を超える作品をプロデュース、うち50本を自ら監督しました。彼に見い出された、というより安い賃金でコキ使われた(笑)若手スタッフ・俳優の中には、ジェームズ・キャメロン、マーティン・スコセッシ、フランシス・フォード・コッポラ、スティーヴン・スピルバーグ、ジャック・ニコルソン、ピーター・フォンダ、ロバート・デニーロなど錚々たる顔ぶれが牙を磨いていたのです。このコラムではその偉大な業績に敬意を表し、数回に渡って作品を紹介していこうと思います。

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『デス・レース 2000年』
1975年・アメリカ・80分
監督/ポール・バーテル
脚本/ロバート・トム、チャールズ・グリフィス
出演/デビッド・キャラダイン、シルベスター・スタローン、シモーネ・グルフェス、メアリー・ウォロノフ、ロバータ・コリンズ、マーティン・コーヴほか
原題『DEATH RACE 2000』

 ロジャー・コーマンが製作した中でも、ひときわカルト人気の高い作品。1979年に世界大戦が起き、勝利したアメリカ合衆国は大統領が独裁するアメリカ連邦を樹立します。大統領は毎年、ニューヨークから新首都ニューロサンゼルスまでを3日間で横断し、改造車で人を轢き殺して得点を挙げる「デス・レース」を開催して国民の圧倒的な支持を得ていました。その勝敗は着順ではなく、殺した人間の性別や年齢で定められた得点の合計で決まります。女性は男性より10点増し(年齢で変動)。ティーンエイジャーは40点、12歳以下は70点。そして最高得点は男女問わず75歳以上の100点。つまり殺す相手が弱者ほど高得点なのです! 物語は2000年度の第20回レースを舞台に、一癖も二癖もある参加者5名によって繰り広げられます。

 主人公は『キル・ビル』シリーズのデビッド・キャラダインが演じるフランケンシュタイン(以降フランケン)。大統領お抱えの覆面レーサーで、その全身真っ黒なコスチュームの下には頭蓋骨骨折、顔半分を焼失、片腕と片足切断など歴戦の事故による夥しい手術痕が隠されているのです。愛車「モンスター号」のフロントグリルに並ぶ11本の牙がマンガチックです。

 フランケンのライバルには、怒るとマシンガンをぶっ放す超短気なマシンガン・ジョー。「ピースメイカー号」はフロントの両脇にマシンガンを配し、その中央には刃渡り1メートルの巨大なナイフと、これまたオバカなデザイン。ジョー役は翌年に『ロッキー』で大ブレイクする無名時代のシルベスター・スタローン! だが、まだロッキーではないスタローンはフランケンに殴り合いで無様にKO負けします(笑)。ローマ帝国の暴君ネロに扮して「ライオン号」に乗るレイ・ロニガンは、空手映画『ベストキッド』シリーズのコブラ会リーダーに扮したアクション俳優マーティン・コーヴの若き日の姿です。

 そして女性が2名。角と鼻輪が付いている「雄牛号」に乗るカラミティ・ジェーンは、当作のバーテル監督作品常連の個性派女優メアリー・ウォロノフ。観客席から「ハイル! ハイル!」のシュプレヒコールが巻き起こるのは、「ナチスの恋人」と呼ばれるコケティッシュで残忍なマチルダ。迷彩塗装の車体に鉤十字ハーケンクロイツ、天井に戦車の砲身がデンと乗っかっている「誘導爆弾号」。マチルダ役のロバータ・コリンズといえば、トビー・フーパー監督『悪魔の沼』(77年)でワニに食われる売春婦役です。この美女レーサー2名と男性レーサーのナビゲーター嬢が、ホテルのロビーでマッチョマン達から全裸でマッサージを受けながら、マスコミ取材に答えている脱ぎっぷりのよさは壮観です。

 ついでですが、フランケンの嘱託医役は本作の監督ポール・バーテル本人。そして後に『狼男アメリカン』(81年)やマイケル・ジャクソン『スリラー』(83年)のミュージックビデオの監督で有名になるジョン・ランディスが整備士役で出演しているのもトリビアです。

 先制点はマシンガン・ジョー。道路工事作業員の股間を巨大ナイフで刺し、フランケンの応援横断幕を張っていた男をハシゴから落とし頭をグチャ! カラミティ・ジェーンの前に現れた闘牛士のコスで赤いケープをヒラヒラさせるバカは、雄牛号を「オーレ!」と何度もかわしますが角で突き殺されてしまいます。こういった一般参加による命懸けの冷やかしがレースを盛り上げるのです。フランケンの行く手には「安楽死デー」と銘打たれた大病院のスタッフと患者が全員ニコニコしながら待ちわびています。すると看護師が車椅子やストレッチャーに乗せた6人の老人を道路のド真ん中に放置します。そこへやってきたモンスター号、直前で老人達を避け、沿道の垣根の陰から見物していた看護師達を漫画みたいにポーンポーンと次々に撥ね飛ばしていきます。どうやら高得点を捨ててまでした、フランケンなりの人道的行動だったようです。

 暴君ネロことロニガンは樹の下で弁当広げている母子を発見し、「頂き!」と高得点の赤ん坊へ一直線。だがドッカーン! とライオン号は木端微塵に爆散するのでした。実はこれ、大統領の失脚を狙いデス・レースを妨害するレジスタンスが仕掛けた人形爆弾でした。そしてフランケンのナビゲーターを務めるアニーは、レジスタンス代表ミセス・ペインの孫娘だったのです。その晩、アニーはハニートラップでフランケンを誘い抱かれます。マスクを外したフランケンの素顔は、なぜか傷ひとつありませんでした。

 レース2日目、鋭いフランケンの洞察に屈したアニーは正体を明かします。だがマチルダがレジスタンスのニセ標識に誘導され崖から転落死すると、事故の件で警察に事情聴取されたフランケンは知らぬ存ぜぬでトボケます。この晩アニーは、自分を警察から庇ったフランケンとハニートラップなしで愛し合います。そんな時にも手袋を外さないフランケンは、不審がるアニーに「いずれわかる」と言うだけでした。

 最終日。カラミティ・ジェーンもレジスタンスの地雷で爆死し、ついにフランケンとマシンガン・ジョーの一騎討ち! だがフランケンを愛してしまったアニーは、「もう仲間のもとに帰れないわ」と走行中のハンドルを掴んで彼と心中を計ります。そこでフランケンは「生きて俺を助けろ。お前は俺の相棒だ」と、初めて手袋を外します。そこには......。この先の結末はB級映画にしては非常によくできていて、ロジャー・コーマンが単に残酷だけを売りにしているわけではない事が解ります。なので今回は、敢えてネタバレは避けておきます。ぜひご自分の目で、どんでん返しをお楽しみください。

 原案は、コウモリグモや巨大アメーバなどユニークな宇宙怪獣が登場する『巨大アメーバの惑星』(59年)の監督、珍しいデンマーク製怪獣映画『冷凍凶獣の惨殺』(61年)では脚本と、B級怪獣マニアの間でカルト的な存在のイブ・メルキオールでした。オマケに小ネタをひとつ。電気グルーヴのインディーズ盤1stアルバム『662 BPM BY DG』に収録された『電気ビリビリ』には、「邪魔な奴らは跳ね飛ばせ 特にババアやジジイは高得点」という作品リスペクトの歌詞が書かれていましたが、後にメジャー契約したソニーでは検閲に引っ掛かり「邪魔な奴らはブッ飛ばせ 特に砂かけババアは高得点」と改詞されました。砂かけババアって(笑)。

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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