【無観客! 誰も観ない映画祭】第31回『魔獣大陸』
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『魔獣大陸』
1968年・英・97分
監督/マイケル・カレラス
脚本/マイケル・ナッシュ
出演/エリック・ポーター、ヒルデガード・ネフ、スザンナ・リー、ダナ・キレスビー、エオニー・バックレイ、ナイジェル・ストックほか
原題『THE LOST CONTINENT』
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子供の頃、土曜日の昼下がりとかに放送されていた怪しいSFやホラー洋画をよく観ていました。今回は筆者がテレビで2度は観た記憶があるトラウマ作品、『魔獣大陸』を紹介します。
製作は、フランケンシュタインやドラキュラなどを手掛けたイギリスのハマー・フィルム・プロダクション(以後ハマープロ)。監督は恐竜映画の大傑作『恐竜100万年』(66年)を手掛けた、ハマー作品の大御所マイケル・カレラス(脚本のマイケル・ナッシュはカレラス監督の別名義)。イギリスのベストセラー作家デニス・ウィートリーが1938年に発表した『海図にない海』を原作に、『THE LOST CONTINENT』(「失われた大陸」)、日本では『魔獣大陸』というタイトルで公開されました。
イギリスから南米に向けて航行する貨物船カリタ号。船長のランセン(英国アカデミー賞最優秀主演男優賞のエリック・ポーター)は、密輸や密入国に手を染めていました。物語の前半はグダグダな人間ドラマで占められ、途中で寝てしまったお客さんも少なからずいたことでしょう。なので中盤から紹介します。カリタ号は海面を海藻がビッシリ覆った「船の墓場」に漂着します。よくSF作品に登場する「魔の海」サルガッソー海です。名称の元になった浮遊性の海藻サルガッスムがスクリューに絡み付き、航行不能となった船舶が海流に運ばれ1カ所に集まる謎の海域ですが、都市伝説だそうです(笑)。
そこで船長の手首に海面の海藻が絡み付いて血を吸い、海に落ちた船員は蛇のように巻き付かれ殺されてしまいます。ようやく怪奇映画らしくなってきました。そして乗船してすぐ若い機関士と寝た淫乱女ユニティが、ドミニカ大統領の情婦を脅して船室で抱いたばかりの大統領密使と甲板でキスしていると(みんな乱れています)、突如海から一つ目が緑色に輝く巨大なクラゲ怪獣が出現! ユニティはクラゲ怪獣の長い触手に襲われ、露出の多いドレスの裾からフトモモを全開(エロ担当の見せ場)。ユニティを助けようとする密使は背徳の快楽を味わった罰が当たったのか、クラゲ怪獣に海へと引きずり込まれてしまいました。
そんな惨劇後、「助けて~!」と若いお姉さんが、浮力のある風船を体に着け、雪国のカンジキみたいなものを履いて海藻の海上をヨタヨタ歩いてカリタ号にやってきます。サラと名乗る女は、ダイナマイト級の巨乳がシャツからこぼれそうなエロ担当第2号です。するとサラの後から同じ装具を着けた男達が追いかけてきます。船長らはこれを銃撃して追い払い、サラはカリタ号に保護されます。霧で見えませんでしたが近くには島があり、そこでサラ達島民はメキシコを侵略したイスパニア(旧スペイン)司教の末裔と名乗るカルト集団に武力支配されていたのです。
島では聖堂で宗教儀式が行われていて、島民に崇められる司教は驚くことに中学生ぐらいの美少年でした。だがKKKみたいな三角頭巾で顔を隠した男が常に耳打ちで指示しているので、どうやら少年は傀儡(かいらい)のようです。少年司教はサラを連れ戻せなかった男達のリーダーの失敗を責め「罰を与える」と言い付けます。兵士達が床下にある水槽の扉を開くと、その底にはタコみたいな吸盤が付いた触手が渦巻き状に絡み合い、その中央には赤い牙だかトゲが複数生えた肛門のような口がグチュグチュと開いたり閉じたりしています。文字で形容しがたい、生理的にかなりキモイ怪生物です。兵士達が恐怖で喚き散らす男をその中に投げ込むと、司教座に座っていた少年がダッシュで来て上から覗き込みます。男が悲鳴を上げながらムシャムシャと食われていく様子を、少年はまるでトカゲに生餌を与えるのを楽しんでいるかのような残虐な笑みを浮かべて見入っています。ここはハマープロ特有の見世物的な猟奇趣味全開で、「自分が投げ込まれたら......」と少年時の筆者が植え付けられた最大のトラウマシーンでした。
さて家族が心配で島に戻るサラに、巨乳に惚れたアル中青年、シェフ、機関長が護衛に付きます。一行は島に上陸して一休みしますが、シェフが寄り掛かっていた岩の表面にパチッと生物の両目が開きます。さらにギギギと腕らしきモノがシェフの背後から迫ります。岩だと思ったのはヤドカリの怪獣でした。シェフが振り向くと、口の中にある舌か何かがピロピロと気持ち悪く蠢いている巨大な顔! シェフは巨大なハサミで首を挟まれて死亡。さらに、そこへサソリの怪獣が出現! 脚をワシャワシャ動かしながらスーッと地面を滑るように(おそらく腹の下に台車)ヤドカリ怪獣に詰め寄ります。ワニサイズの怪獣同士が死闘を繰り広げますが、双方が手足をバタバタさせているだけです(そんなんでも筆者は嬉しい)。やがて機関長に左目をライフルで撃たれたヤドカリ怪獣が動かなくなり(弱っ)、サソリ怪獣はスタコラサッサと逃げてしまいました。機械仕掛けの二大怪獣を製作したのは、ディズニー作品『海底二万マイル』(55年)の大イカ、『ジョーズ』(75年)のホホジロザメを作ったロバート・A・マッティでした。
この作品は1969年に『まんが王』10月号で漫画化され、子供が読むのでエロは無しですが、なんと登場人物が日本人に、カルト集団はロスチャイルドならぬロストチャイド帝国と大胆にアレンジされました。クラゲ怪獣は帝国の守護神という設定で、残念ながら聖堂の水槽で飼われていたトラウマ怪獣は省かれましたが(納得いかん!)、代わりにヒトデ怪獣、人食い花、カメレオン怪獣と勝手に3匹も増やす大サービスぶり。ところで唯一サソリ怪獣だけザリガスと名前が付いていましたが、それはザリガニ怪獣の呼び名では? 漫画家先生、呼ぶ相手を間違えたようです......。
『まんが王』10月号(秋田書店)付録。表紙写真にザリガニ怪獣VSサソリ怪獣が!
低予算の人間大モンスター映画と違い複数の怪獣が登場する金の掛かる特撮映画ということで、ハマープロとしては異例の製作費を投じました。スタジオに巨大セットを組み、66万リットルもの水を蓄えたタンクが設けられ、海藻が蔓延る不気味なサルガッソー海を見事に再現しました。しかし大金懸けた割に興行は大コケしたのです。作品は1970年代にテレビで『大怪獣タコヘドラの襲来』という笑える邦題で放映されました。当時公開された『ゴジラ対へドラ』(71年)の影響でしょうね。でもタコヘドラって、どの怪物を指すのでしょうか。最初に出てきたクラゲ怪獣? それとも聖堂で飼われているグチュグチュな奴? 「大陸」も出てこなかったし(苦笑)、謎だらけの『魔獣大陸』でした。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。