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マット・デイモンが娘のために孤軍奮闘 『スティルウォーター』

スティルウォーター (字幕版)
『スティルウォーター (字幕版)』
マット・デイモン,カミーユ・コッタン,アビゲイル・ブレスリン,トム・マッカーシー,マーカス・ヒンチー,トーマス・ビデガン,ノエ・ドゥブレ,トム・マッカーシー,スティーヴ・ゴリン,トム・マッカーシー,ジョナサン・キング,ライザ・チェイシン
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失業中の元石油掘削作業員の主人公が、娘に会うためアメリカの片田舎から、仏マルセイユへと向かう。ガールフレンド殺害の罪で投獄中の冤罪の証拠を探し、娘を助けるため...。

『スティルウォーター』とはオクラホマ州にある土地の名前で、主人公のビル(マット・デイモン)が暮らす街である。が、それだけに収まらなそうなのだ。まずひとつに、スティルウォーターという地名の由来は、そこに水が静止しているように見える川があったというインディアンの言い伝えに関係しているという。劇中では、投獄中の娘アリソンが恋人に手を下したとして収容されてから、すでに5年の月日が経っている。そのあいだ物語は「静止」していたのである。なにが起きたのか振り返るシーンはひとつも描かれないため、強烈に想像力を掻き立てられる。

もうひとつに、スティルウォーターは、炭酸水ではない「普通の水」を指す言葉でもある。泡だたない、保守的な主人公を揶揄しているのかもしれない。ビルは典型的な白人男性のブルーカラー(肉体労働者)。フランスに全く馴染めず、ありとあらゆる壁につまずいてしまう。強引さのみで突破しようとする彼をうまく嗜めるのが、マルセイユで出会うシングルマザーのヴィルジニーと娘マヤ。彼女の存在もまた、事件の解決に大きく関わってくる。

ストーリーの下敷きになっているのは、2007年イタリアで起きた留学生殺害事件。犯人とされたルームメイトのアマンダは4年間の服役。冤罪が明らかになったのは2015年のことだった。娘アリソンを演じたのは『リトル・ミス・サンシャイン』で、メガネ姿がチャーミンだったアビゲイル・ブレスリン。セリフ数こそ多くないものの、複雑な心情の表現がすばらしく見事。

(文/峰典子)

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