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実写映画『DRAGONBALL EVOLUTION』を楽しむ方法

ドラゴンボール EVOLUTION (字幕版)
『ドラゴンボール EVOLUTION (字幕版)』
Justin Chatwin,Emmy Rossum,Jamie Chung,Yun-Fat Chow,James Marsters,James Wong
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 みんな大好き人気マンガ『ドラゴンボール』。1984年から95年にかけて週刊少年ジャンプに連載され、数シリーズに渡るテレビアニメ化、それと並行して劇場用アニメ版も多数製作され、近年に至るもなお新作が発表され続けている作品だ。

 とはいうものの筆者は連載時に原作マンガをジャンプ誌上でひととおり読み、後に単行本で何度か繰り返し読んでいただけで、野沢雅子御大が主演するアニメ版はテレビ映画ともにほぼスルー。なぜなら同じ鳥山明先生の前作『Dr.スランプ』も原作は好きだけどアニメ版は放送途中で離脱して、そのままアニメを見ないお年頃となっていたからである。

 ついでにいえば、アニメを見なくなった時期にたまたまテレビをつけたら映った『ドラゴンボールZ』のあるエピソードが、あまりにも話が進まなすぎて見ていられなかったというのもある。毎週15ページの原作を毎週30分の番組にしなければならない以上、追いつかないための措置として仕方なかったとはいえ、メインターゲットの子どもたちもあれで納得していたのかは疑問だ。

 それでも先述のとおりアニメ版は現在も新作が作られ続けているわけで、それはそれで成功に結びついていたのは事実だろう。

 そんな中、同じ『ドラゴンボール』の映像化でありながら、ファンのほぼ誰もが、それどころか原作者ですら否定的なコメントをしてしまう作品がある。アメリカで製作された実写映画『DRAGONBALL EVOLUTION』だ。

 確かに否定したくなるのもわかる。おそらく予算の都合でCGがしょぼく、アクションも微妙。お話もかなり行き当たりばったり感があり、脚本の出来にも問題がある。とはいえ、ファンが怒っているのは、どうやら一本の映画としてどうこうというより、内容が原作と大違い、ということのようだ。

 確かに漫画やアニメの映像化というのは、原作ファンをメインターゲットとしている分、原作に忠実であることを求められがちではる。しかし、そこまで原作に忠実なものを求めるのであれば、原作を繰り返し鑑賞していれば良いのではないか、とも思う。

 また、駄作とレッテルを貼られた作品をみんなで一緒にぼこぼこにするのが楽しい、という気分もわからないではない。が、どうせなら面白く鑑賞した方がより建設的なのではなかろうか。

 そこで『DRAGONBALL EVOLUTION』を肯定的に楽しむための鑑賞方法を考えてみたい。本作は単行本全42巻を原作としながら85分というかなりタイトな作品に仕上げているだけに、原作の要素を凝縮した内容となっている。原作に追いつかないために引き延ばしをしまくっていたテレビ版とは正反対だ。

 物語全体は原作当初のドラゴンボール探しをベースにしながらも、その敵には原作がしばらく進んでから登場するピッコロが登場。さらに主人公の孫悟空と原作では後に妻となるチチの関係は、原作後期の「魔人ブウ編」冒頭における悟空の息子・悟飯と、その同級生ビーデルの関係に置き換えられている。その他、ちょっとしたネーミングに原作に登場するあれやこれやが使われており、ファンならそうした小ネタを楽しむことだってできるだろう。さらにはドラゴンボールを集めると現れる神龍も、原作では東洋の龍だが、本作では西洋のドラゴンをベースとしたデザインになっているのも、お国柄を感じられる要素だ。

 そんなわけで原作ファンからは悪評だらけの『DRAGONBALL EVOLUTION』だが、原作を知っているからこそ面白がれる要素も満載。もっとも、原作ファンには説明不要とばかりに作中設定の多くはただ提示されるだけで話がどんどん進むため、原作ファンに不評のみならず、原作を知らない人にも理解が難しい可能性も十分で、結局は興味本位で見るべき作品なのかもしれない。

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田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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