もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭】第17回『人喰いエイリアン』

人喰いエイリアン[DVD]
『人喰いエイリアン[DVD]』
バリー・ストークス,サリー・フォークナー,グローリー・アナン,トニー・メイデン,マイケル・ロウラット,ケイト・ファーガソン,ノーマン・J・ウォーレン
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『人喰いエイリアン』
1977年公開・85分・イギリス
監督/ノーマン・J・ウォーレン
脚本/マックス・カフ
出演/バリー・ストークス、サリー・フォークナー、グローリー・アナンほか
原題『ALIEN PREY』

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『ギロチノイド』(79年)や『悪魔の受胎』(81年)などを撮ったイギリスの映画監督ノーマン・J・ウォーレンは、英国が誇るホラー映画の老舗ハマープロとアミカスプロに取って代わる「ブリテッシュ・ホラーのニューウェーブ」と一部で評価されていたようですが、それは誉めすぎかもしれません(笑)。ウォーレン作品は、クズビデオ、ゴミビデオの墓場である中古ビデオ屋の3本2000円セールでモノ好き(筆者とか)によって保護され、手厚く保管され余生を送っているのです。今回は、ウォーレン監督が弱小プロダクションから粗筋だけ告げられ(台本が未完成)期限10日で撮った作品。さすが「早い! 安い! つまらない!」と三拍子揃ったB級職人です。


 ロンドン郊外の森に、深夜一人の宇宙人が降り立ちます。カラコン入れた真っ赤な目に入れ歯の牙、そして黒く塗っただけの犬みたいな鼻先が珍妙です。宇宙人は大気圏外で待機している宇宙船に「予定通りミッション・プロテインを実行する」と交信した後、近くにいたカップルをレーザー銃ではなく噛み殺し、その男の姿に化けます。

 森の中には別荘があり、2人の若い女性が過ごしていました。1人はフワ髪がガーリーなカナダ人のジェシカ。もう一人はビズリーチCMの吉谷彩子風ショートカットのボーイッシュな英国人ジョアンナ、通称ジョー。2人ともノーブラで、たまに意味もなく胸を見せてくれます(サービスカット)。そこへ殺した男アンダーソンの名を語る宇宙人(以後アンダーソン)が訪れ、中庭に通されます。アンダーソンは淹れたてのコーヒーを冷まさず飲もうとして「アチチ!」。観葉植物に「森にたくさん生えているのに何のため?」。菜食主義者のジョーが作ったベジタリアン料理はその場で吐き、ケーキも一口かじって残します。音楽も理解していません。ただ鳥籠にいるジェシカのオウムには強い興味を示し、じっと見つめています。2人はアンダーソンを怪しみながらも泊まってもらいます。若い娘2人きりの家に初対面の不審者を? SNSで知らない男と簡単に会ってしまう女子児童並みに軽率です。

 その夜のディナーで「私達、恋人同士なの」と2人はカミングアウトします(やっぱり!)。ジョーはボイタチ(ボーイッシュなタチ)で、フェムネコ(フェミニンなウケ)のジェシカはバイセクシャルでした。2人のベッドシーンは激しく、ジョーの雄々しい攻めにジェシカが嬌声を出して悶え、それをドアの隙間から覗き見したアンダーソンが宇宙船に報告します。「地球人は攻撃的だ」(笑)。だがジョーはジェシカが関心を寄せるアンダーソンに嫉妬。ジェシカはそんなジョーの束縛に日頃から辟易していたため2人の仲に亀裂が生じます。実は行方不明になっているジェシカのボーイフレンドは、嫉妬に狂ったジョーが殺して森に埋めていたのでした。

 さて地球人の食い物を受け付けないアンダーソンですが、森のウサギやキツネ、ジョーが飼っているニワトリ3羽も全て平らげてしまいます。ミッション・プロテイン、それは食糧難か何かでタンパク質が不足した宇宙人による、地球の動物が喰えるかどうか(基本ナマ)の試食調査だったのです。原題にある「PREY」とは「獲物」の意味でした。

 翌朝、森から聞こえる悲鳴を聞いてジェシカらが駆けつけてみると、アンダーソンが池で溺れています。アンダーソンは白鳥を喰おうと池に入ったのですが、彼の星では「泳ぐ」という概念もなかったようです。2人が池に飛び込みアンダーソンを助けますが、底の泥が巻き上がり水は真っ黒。実はこの池にはケミカルな産業廃棄物が投棄されていて、黒い泥はヤバイ沈殿物だったようです(汗)。撮影後3人に破傷風の予防注射が打たれましたが、それだけで大丈夫でしょうか......。

 部屋に戻り、嫌気が差したジョーがアンダーソンに出ていってもらうと告げると、ジェシカは「なら私も一緒に」。これで一気に破局を招き、部屋を飛び出したジェシカが中庭で悲鳴を上げます。愛鳥が食い散らかされていたのです(もちろん犯人はアンダーソン)。ジョーはパニックになっているジェシカの後頭部を鉢植えの縁に打ち付けて気絶させ、アンダーソンに金を渡して追い出します。ジェシカを生き埋めにする穴をジョーが掘っている隙に、アンダーソンは彼女が寝かされている部屋に侵入。すると目覚めたジェシカがアンダーソンを誘惑してベッドイン。チンチンをいじられ興奮してきたアンダーソンはジェシカのパンツを荒々しく剥ぎ取り、腰を動かしながら犬顔宇宙人に変身! ジェシカの喉笛を食いちぎってムシャムシャ(ビデオジャケットの表紙)。戻ってきたジョーがそれを見て、ゲロを吐きながら逃げます。だがジョーは自分が掘った穴に落ちてビズリーチ! アンダーソンは宇宙船に「地球人のタンパク質は良質です」と報告します。林道を幼い姉妹(新しい獲物)が手を繋いで歩いてきたところで完。


 この後アンダーソンが獲物を物色しに町の酒場へ行き、仲間達も地球に降りてくるという続編企画がありましたが、公開先が決まらず断念しました。アンダーソン役は、大駄作『ベルサイユのばら』(79年、東宝・フランス合作)で全く冴えないアンドレを演じたバリー・ストークス。ちなみに冒頭で殺された女は助監督のカノジョさん、ラストの姉妹はプロデューサーの娘で間に合わせています。

 この作品を日本に持ち込んだのは、『人間ミンチ』(71年)や『ミミズバーガー』(75年)などでゲテモノ映画ブームを牽引したMIMIビデオ。今回の作品は1977年公開ですが、ビデオジャケットには「1984年」と記載されています。1985年に創業したMIMIビデオは、近年の作品として装ったのでしょう。ビデオメーカーの多くはソニー、ビクター、コロンビアなどの大手が経営母体でしたが、MIMIビデオは後ろ盾なしの個人経営。社長はなんと70年代の人気アイドル歌手・仲雅美で、レーベル名は愛猫ミミちゃんから命名したのでした。

(文/シーサーペン太)

人喰いエイリアン(ALIEN PREY).jpgおまけ:VHS版ジャケット(筆者私物)

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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