もやもやレビュー

どんな境遇にもへっちゃらな顔で立ち向かいたい『人生はビギナーズ』

人生はビギナーズ(字幕版)
『人生はビギナーズ(字幕版)』
ユアン・マクレガー,クリストファー・プラマー,メラニー・ロラン,ゴラン・ヴィシュニック,マイク・ミルズ,マイク・ミルズ
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はじめてのことにはいつも妙に緊張して、消極的になってしまう。でもそんなことを言っている場合ではない。せっかくの人生、大胆にいこうじゃないか。『人生はビギナーズ』(2010年)の中心人物であるハル(クリストファー・プラマー)はそう体で教えてくれる。70代の長身のオジサマ、ハル。物語は彼が妻を病で亡くし、主人公であり息子であるオリバー(ユアン・マクレガー)に自身がゲイだと打ち明けるところから始まる(ちなみにこれは本作を手がけたマイク・ミルズ監督に本当に起きたこと)。

まずハルは恋人を募集しようと、こんな手紙をしたためる。「セックスの相手を求む。(中略)当方78歳の老人。まだ魅力も精力もある。(中略)年配の男性に興味があれば、まずは会ってほしい」

ようやくオープンにした自身の性的指向で、はじめてのお相手探し。緊張も不安も一切見られない、力強いメッセージだ。ちなみにここで言っておくが、この話は陽気なおっちゃんのラブストーリーではない。父親の最期に寄り添う息子との物語である。というのも、ゲイだと打ち明け、めでたく恋人を見つけてからほどなくして、ハルには癌が見つかってしまう(ここも実話)。

絶望してしまうような状況だが、ハルは病に妨げられることなく定期的にパーティーを開くなど、むしろ生き生きとしている。その様子を静かに見守るオリバーは複雑そうだ。余裕な素振りで振る舞うハルにも無理はあるのだろうが、相当な精神力がないとできる技ではない。そんなハルの姿を見て、さまざまな境遇をへっちゃらな顔で乗り越えていけるよう、まずはもう少し大胆に生きてみようと思った。

(文/鈴木未来)

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