もやもやレビュー

香港映画界の闇にまつわる珍作『ドラゴン特攻隊』

ドラゴン特攻隊 デジタル・リマスター版 [DVD]
『ドラゴン特攻隊 デジタル・リマスター版 [DVD]』
ジャッキー・チェン,チュー・イェンピン
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 第二次大戦中、連合国側の将軍数名が日本軍に誘拐される事件が発生。凄腕の軍人は個性豊かな無法者たちをスカウトし少数精鋭部隊を結成、将軍救出へと赴く。なんともワクワクするあらすじに、主演は我らが大スターのジャッキー・チェン! 期待するなという方が無理な作品が、1982年の香港台湾合作映画『ドラゴン特攻隊』だ。

 だが、その期待はことごとく妙な方向に裏切られる。確かに物語は先のあらすじどおりだし、部隊の面々は全員個性豊か、本格的な大爆発もたっぷりだしエキストラの数も尋常ではなく、予算もかなりかかっていると推測される。なのに、徹頭徹尾、安っぽいのである。

 例えば編集のタイミング。本作では段取りを次々こなすことに意識が向いているのか、カットつなぎが「はいこれ終わり、じゃあ次これね」と矢継ぎ早に行われ、映画ならではの「間」がことごとくなく、余韻もへったくれもない。

 人海戦術によるそれなりの金のかかりっぷりはわかるのだが、基本的に荒野に組まれたセットは粗雑だし、一時的に部隊の面々が寝泊まりする建物はあからさまに薄汚い。単に古びているとかではなく、衛生的に問題がありそうな雰囲気だ。

 そして何より一番の問題はジャッキー・チェンの存在だ。おそらく本作を見る人のほとんど、それこそ9割ぐらいはジャッキー目当てだと思うのだが、なんとジャッキーは救出部隊の一員ではない。ジャッキーは部隊が移動する先々で偶然何度か出くわす、彼らの任務とは全く関係ない賞金稼ぎ的冒険者なのである。

 実は本作製作前、ジャッキー・チェンは契約問題で揉めており、香港ヤクザも絡む危機的状況に陥っていたのだという。そんな彼に手を差し伸べ手打ちにしたのが、香港映画界のドンにして裏社会にも顔が効くというちょっとやばいかもしれない人、ジミー・ウォングだった。ジャッキーは自身の窮地を救ってくれたジミーへの義理立てとして、彼が製作及び部隊長役で主演する『ドラゴン特攻隊』にもゲスト出演した、というのが、主役じゃないのに妙に目立つ役柄である真相、とのことである。

 なるほど、であればジャッキー・チェンがなんだか変な立ち位置なのも仕方なく、映画のクオリティも微妙なのも仕方ない。これにて疑問解決。

 ......というわけもなく、ジャッキー・チェンがたとえそういう理由で出演していたとしても、それが映画全体のクオリティ低下につながるとするのは無理がある。要は金はあるけどセンスがない映画人が、ジャッキーに売った恩を使えるうちに使え! という意気込みで大急ぎで作った映画が本作なのではなかろうか。

 とはいえ最初に書いたように、それなりにワクワクさせるあらすじと、色っぽくないアマゾネス軍団が登場したり怖くないお化け屋敷騒動があったりと、センスはないけどサービス精神だけは間違いなく旺盛なので、そういうもんだと割り切って見れば楽しめなくもない、そんな愉快痛快な珍作でした。

(文/田中元)

田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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