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【無観客! 誰も観ない映画祭】第15回『ブルークリスマス』

ブルークリスマス [DVD]
『ブルークリスマス [DVD]』
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東宝
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『ブルークリスマス』
1978年・東宝・133分
監督/岡本喜八
脚本/倉本聰
出演/勝野洋、竹下景子、仲代達也、岡田英次、岡田裕介、沖雅也、田中邦衛、天本英世、岸田森ほか

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 若い時に「つまらない、退屈」と感じた映画を数十年ぶりに観返してみると、「意外と面白いぞ!」といった体験は誰もがお持ちでしょう。恋愛、仕事、肉親・友人との死別、または趣味嗜好の変移など人生経験を重ねた円熟がそうさせるのですが、以前『ブルークリスマス』を観ていない友人から感想を求められ「暗くてつまらないよ。観なくても大丈夫」などと無責任な返答をしてしまいました。しかしクリスマスが近付き、何気なく30数年ぶりに鑑賞してみると......物語にグイグイ引き込まれていくではありませんか。そこで今更ですが、改めて作品を紹介したいと思います(ネタバレあり)。

 本作をざっくり言えば、世界中でUFOの光を浴びた人間の血が青く変色し、政府の秘密部隊によって狩られていくという怖い話。監督は『独立愚連隊』(59年)、『日本のいちばん長い日』(67年)の岡本喜八。脚本は『前略おふくろ様』(75~76年)、『北の国から』(81~82年)の倉本聰

 ゴジラシリーズほか数多くのSF映画を手掛けてきた東宝プロデューサー田中友幸は、特撮嫌いで有名な岡本監督にその手の作品を依頼する事はありませんでした。だが『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』といったSF映画ブームに沸く1977年、田中プロデューサーは『キネマ旬報』誌に掲載された倉本聰の未映像化脚本『UFOブルークリスマス』に着目、UFOも宇宙人も出ないSF作品を岡本監督にオファーしたのです。実は岡本監督、宇宙人の存在を信じUFOとの遭遇を望んでいたため、イブに渡された脚本をクリスマスプレゼントとして大いに喜んだとの事です。一方、倉本聰もまたUFOビリーバーで、実際にUFO目撃が多い北海道を舞台にした『北の国』では、蛍(中嶋朋子)がUFOを目撃し教師(原田美枝子)は母船にアブダクト! なんて話も書いています。

 話は国営放送の報道局員・南(仲代達也)が突き当たる国家的陰謀、それを遂行する国防庁特殊部隊の沖隊員(『太陽にほえろ!』テキサス刑事の勝野洋)と一般市民の冴子(竹下景子)による悲恋という二本柱で進行します。国際科学者会議で宇宙人の存在を公表した兵頭博士(岡田英次)が、米国の諜報機関に拉致されます。失踪した博士の行方を追う南は、世界各地でUFOに遭遇した人間の血が青く変わり、短気な人は穏やかになるといった現象が頻発している事を知ります。日本でも青い血の新生児が母子共に病院から消え、青い血の発覚した女優が麻薬不法所持の疑いを懸けられ自殺を遂げ、その恋人まで不審な事故死をしてしまいます。全ては仕組まれたものと確信する南が青い血に関する一件を報道しようとすると、上からの圧力が掛かり作成した全資料を奪われパリへ左遷されてしまいます。

 女優のハンドバッグに薬物を仕込んだのは、青い血の人間に対する秘密工作を任務とする自衛官の沖でした。髪型も同じ短髪で、どこから見てもテキサス刑事にしか見えない沖ですが、その明朗キャラから一変、終始ムスッと無口で笑顔ひとつ見せません。思えば映画が暗いと感じたのは、この人のせいです(笑)。だが沖は朴念仁のくせに、行きつけの床屋で働く冴子目当てに通い詰め、見事交際に漕ぎ着けます。当時の竹下景子と言えば、『クイズダービー』(76~92年)の回答者ほか数々のテレビドラマで活躍し、「お嫁さんにしたい女優No.1」と呼ばれるほどの人気者でした。

 やがて急増する青い血の人間が次々と隔離され、レジスタンスが組織されます。逃げ隠れする青い血の人々は、匿われたアジトで恐ろしい流出映像を見せられます。言葉巧みに集められた青い血の人達が横須賀港から太平洋上の米軍艦まで移送され、そこからヘリでシベリア収容所に運ばれます。そこである者は生体解剖され、ある者はロボトミー手術を受けて廃人にされていたのでした。

 さて世間はクリスマスに浮かれ、冴子も「兄さん、今日は帰らないの」(兄役は田中邦衛)。内心「キター!」でも、あくまで無表情の沖は冴子を抱き「初めてだったのか......」と濡れた自分の指を見てみると青い血! 「ガーン!」とさすがに沖も表情を強張らせます。

 やがて北米、イタリア、ソ連など世界各地にアダムスキー型UFOが数百機単位の大編隊で飛来! 国会もUFOを取り上げ、世界がパニックに陥ります。そしてクリスマスイブの日、青い血の人間に対する世界同時射殺指令が発令! 隊員達の前で上官が訓示します。隊員の中には沖の顔も見えます。「重ねて言うが、これは殺人ではない。相手は人間とは全く異なる物である」。ちなみに青い血の人間になった者は悪さをするでもなく、むしろ平和に日常生活を送っているのです。正体不明の異分子に戦慄と恐怖を覚えた地球最高権力者(誰?)による強制排除なのか?

 その頃、冴子は沖へのクリスマスプレゼントとケーキを買い、いそいそと自宅で料理や食器を並べています。男性に縁のなかった冴子にとって、初めて恋人と迎えるクリスマスイブでした。雪が降り出し、やがて沖が現れます。沖は無言で冴子を射殺し、心を乱して家の外へ出たところを特殊部隊の仲間達によって蜂の巣にされます。同時刻、世界中それぞれの形でクリスマスを祝う青い血の人々も、歌い踊っているところを、家族で団らんを楽しんでいるところを「ダダダダダ!」と問答無用の大虐殺! ラスト、降り積もる雪の上で、沖の赤い血と冴子の青い血が合流して混じり合います......。

 これが1978年の12月23日に封切られたわけですが、多くのカップル客がこのバッドエンドにブルーな気分で劇場を後にした事でしょう(いひひ)。巨匠同士がタッグを組んだ鳴り物入りの大作は、大コケに終わりました。なぜUFOの光を浴びると青い血に変わるのか、UFOはどこから何のため地球に来たのか、なぜ人類上層部は青い血の人間を根絶やしにしようとしたのか、その決定はどこの誰が下したのか。様々な疑問点が回収されず終いでしたが、却って説明不足の方が不気味さを演出しているという評価もあります。

 上映時の副題に付く「BLOOD TYPE:BLUE」は、岡本喜八ファンである庵野秀明が『新世紀エヴァンゲリオン』で使徒の波長パターンとして使用し、ビデオソフト用に制作した傑作アニメ『トップをねらえ!』では台詞などにオマージュが垣間見えます。ちなみに『シン・ゴジラ』(16年)で顔写真のみ登場する牧悟郎教授は、岡本喜八監督でした。

 コロナ禍、統一教会問題といった現代の社会情勢に置き換えてみると、国民の知らない間に政府がコソコソ何かやってると考えてゾッとしますね。さあ、幸せなカップルは『ブルークリスマス』を観てイブを過ごすチャレンジをしてみてはいかがですか。ブルー(憂鬱)なクリスマスになっても責任は取りませんが。

(文/シーサーペン太)

【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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