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【無観客! 誰も観ない映画祭】第7回 『恐竜・怪鳥の伝説』

恐竜・怪鳥の伝説
『恐竜・怪鳥の伝説』
渡瀬恒彦,沢野火子,清島智子,林彰太郎,牧冬吉,諸口あきら,伊上勝,松本功,大津一瑯,倉田準二
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『恐竜・怪鳥の伝説』
1977年・東映京都・94分
監督/倉田準二
脚本/伊上勝、松本功、大津一郎
出演/渡瀬恒彦、沢野火子、牧冬吉、野口貴史、名和広ほか

 今回の『恐竜・怪鳥の伝説』は、前回紹介した実写版『ドカベン』の併映作品です。両作品ともに後年カルト作品となる奇跡の興行(笑)でした。当時の東映社長・岡田茂は「もうヤクザやポルノだけではダメだ。トップ(自分)が頭を切り替えなければ」と新機軸の必要性に迫られていました。岡田社長は『ジョーズ』(75年)の大ヒットで流行したパニック映画を世界の趨勢と見定め、「見世物的な怪獣映画だ!」という結論を出しました。確かに東映の劇場用怪獣映画は『怪竜大決戦』(66年)ぐらいしか実績がなく、ゴジラの東宝に大きく遅れを取っていました。そこで東映は、自社の大人気テレビ番組『仮面の忍者赤影』(68~69年)のメイン監督・倉田準二と全話の脚本を書いた伊上勝という最強タッグを抜擢、東映初の子供向けゴールデンウィーク興行で『ドカベン』にくっ付けて勝負に出たのです。

 しかしそこはヤクザとポルノの東映、そんな上手くはいきません。制作責任者の翁長孝雄は「紐で恐竜を引っ張っているのが見え見えで恥ずかしかった。恐ろしいほどコケた。何やこの企画と思っても、ワンマン社長には誰も口答えできない」と述懐しています。作品は『ドカベン』同様に低評価を受け続けていますが、意外と見所が多く飽きの来ない作品だと思います。

 物語は、富士五湖の西湖にプレシオサウルスとランホリンクスが火山活動の地殻変動で蘇り、観光客や村人を殺しまくるという単純な内容です。西湖は周囲10km弱と富士五湖4番目の大きさで、とても巨大生物が生息できる規模の湖ではありませんが、惜しいことに数年後の80年代に同じ富士五湖の本栖湖でUMAモッシー騒動が起こっています。

 メインの二大モンスターは、予告編でこんな感じに紹介されます。「プレシオザウルス(※筆者注。正確にはプレシオサウルス) 全長24m 重さ23トン」「ランホリンクス 全長13m 重さ2トン」。ここで細かいこと言いますと、まず両方とも「陸棲の直立歩行する爬虫類」という恐竜の定義から外れ、学術的には恐竜ではありません。プレシオサウルスは首長竜目の水棲爬虫類で、体長は成体で約5メートル。ランホリンクスの分類は「翼竜」で、全長は約1.3メートル、翼を広げた幅は約1.8メートルと、どちらも意外に小さいです。当時のメディアは太古の爬虫類を「恐竜」と総称する傾向にあり、巨大じゃないと怪獣映画として画にならなかったのでしょう。富士火山活動の地熱で巨大化したという考え方もアリです。

IMG_4688.JPG映画『恐竜・怪鳥の伝説』(映画『ドカベン』との併映)パンフレット表紙より/筆者私物)

 主人公は、渡哲也の実弟にして芸能界ケンカ最強の呼び声高い渡瀬恒彦。彼が特撮映画に出演するのは大変珍しく、そういった意味でも貴重な作品です。ここでは恐竜生存説を唱えていた亡き父親の遺志を継ぐ、石材会社の嘱託社員・芦沢を演じます。その恋人で水中カメラマンの亜希子、通称アッコ役には沢野火子。「さわの・ひこ」ではなく「さわ・のびこ」です。もともと小泉洋子という芸名で東映任侠映画などに出演していましたが、この作品からの改名です。野火とは「野山の不審火。中部地方以西で盆の精霊を送迎する火」。『ドラえもん』ののび太はパパが「伸び伸びと育って欲しい」と名付けましたが、なぜ小泉洋子は「野火子」? それは当作品最大の謎です(笑)。

 それにしてもこの映画、東映お得意のお色気シーンは唯一、シャワーシーンでお尻の割れ目が上半分だけでしたが、『ジョーズ』を意識した残酷シーンに子供達への遠慮はありませんでした。とにかく女優陣が最初から最後まで、それはもうウルサイほど絶叫しまくります。

 冒頭では樹海に入った自殺娘が風穴に転落し、巨大な卵の割れ目から覗くギョロギョロ動く目玉を見て「ギャ~!」と発狂死。アッコの助手を務める女子大生は犬の散歩中に血溜まりで転び、首を食いちぎられた馬の死体(見事な切断面!)を目の前に「ギャ~!」。気を取り直した女子大生がアッコのダイビング中にゴムボート上で待機していると、プレシオサウルスに足を噛まれたまま宙高く吊り下げられます。しばらくして水中からアッコが戻ると女子大生が見当たらず、水中から伸びてきた手がボートの縁を掴みます。「なあんだ」とアッコが手を取ってボートに引き上げると「ギャア~!」。女子大生の下半身はありませんでした(生命力、凄くない?)。その後アッコは風穴で喰い散らかされた人の足や首を見つけて「ギャ~!」。どれも「キャ~!」じゃなくて「ギャ~!」です。

LINE_P2022331_092105.jpg『恐竜・怪鳥の伝説』パンフレットの見開き頁/筆者私物)

 そして夏祭りを楽しむ人々目がけ、軽快なロックのリズムに乗ってランホリンクスがバサバサと飛来。鋭い鉤爪による大殺戮にパニクった警察官が発砲、火薬の詰まったドラム缶に命中して一度に何十人も爆死! からの二大巨獣の流血デスマッチまで息を尽かせない盛り上がりを見せます。ちなみに芹沢とアッコがダイビング中に、アンモナイトやシーラカンスに遭遇するシーンが予定されていましたが本編では実現しませんでした。ちょっと惜しい気もしますが、さすがに日本の湖にシーラカンスはやり過ぎでしたか。

 さて、特撮ではヌボーとした動きが残念でしたが、実物大のプレシオサウルスとランホリンクスの造形物はなかなかの出来でした。作った人は、『ゴジラ』(54年)や『マグマ大使』(66年)などで怪獣スーツの造形に携わった大橋史典名人。内部に風船を仕込んで喉のヒクヒクをリアルに表現した手法や生物感溢れる皮膚などは評価が高く、ここでもその手腕が発揮されました。そんなワケで今度のゴールデンウィークには、ご家族揃って『ドカベン』と『恐竜・怪鳥の伝説』のDVDを2本続けて楽しんでみてはいかがでしょうか。

(文/シーサーペン太)

シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

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