もやもやレビュー

あの名作の続編に挑み健闘した『サイコ2』

サイコ2 [Blu-ray]
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 サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコックの代表作のひとつ『サイコ』(1960年)。近年もガス・ヴァン・サント監督がほとんどトレースといっていいほど同じ演出でリメイクしたバージョン(1998年)や、主人公の幼少期を描くテレビドラマ『ベイツ・モーテル』(2013〜17年)が製作され、色褪せない名作として繰り返し話題となるが、その一方、忘れられがちな気がしてならないのが、本家から23年を経て公開された『サイコ2』(1983年)だ。

 以下、ヒッチコックが『サイコ』公開時に徹底的に避けようとしたネタバレに抵触せざるを得ないので、前作を見ていない方はご注意を。

 物語はあの事件から22年後、完治したと判断されたノーマン・ベイツが釈放されるところから始まる。ノーマンを演じているのは前作同様アンソニー・パーキンス。これだけ期間が開いている続編で同じ役を同じ俳優が演じているのはそれだけで正統続編としての説得力が増す。もう一人、同役で継続出演している人物もいるがそれは見てのお楽しみ。

 ノーマンは20年以上の間、治療を受ける過程で自身が犯した事件を把握しており、再発を恐れ自分自身を信用できないでいる。それでもどうにか日常を取り戻すべく病院に紹介された仕事を得るのだが、何せ小さい町であり、周囲の人々の多くはあの事件を知っているため暴言を吐きかけられたりしてしまう。そうした落ち着かない状況の中、ノーマンはあちらこちらで母の気配を感じ始める。

 観客はせっかくノーマンが完治したはずなんだから平穏に暮らしてほしいと願いつつ、でもこの映画はあの『サイコ』の続編なわけで、それだけに何が起こるかわからない不安も抱え、同時にこういう映画なんだからやっぱり何か起こってほしい、そうした期待に見事に応えてくれる展開へと突入。モノクロだった前作に対して今回はカラーのため、ヒッチコックが極めて上品に見せていたベイツ家もモーテルも不衛生感が強調され、血液ももちろん赤く、わずかながらヌードもあったりして、やっぱり本家に比べると品格が落ちるよなと思われてしまっても仕方ないところは多々あるのだが、ミステリー的にはややアンフェアながらも強引に飲み込まされてしまう予想外の結末まで緊張感が継続、満足度の高い作品に仕上がっていると感じる。

 公開当時は話題性もあってかなりヒットもしたようで、アンソニー・パーキンスが監督もつとめた『サイコ3』(1986年)、連続ドラマのパイロット版として製作された『ベイツ・モテル』(1987年。前述のドラマとは別作品で、こちらは連ドラ化頓挫)、単発テレビムービー『サイコ4』(1990年)と、続編も複数製作された。

 また、『サイコ』の原作者ロバート・ブロックも独自に小説『サイコ2』を執筆しているが(邦訳は映画『サイコ2』と同時期に創元推理文庫から刊行)、映画版とは全く違うストーリーなので読み比べてみるのも一興。

田中元画像.jpeg文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
https://about.me/gen.tanaka

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