もやもやレビュー

【無観客! 誰も観ない映画祭】第5回 『アイアンマンと不思議な仏像』

アイアンマンと不思議な仏像
『アイアンマンと不思議な仏像』
ジェイムズ・イーグルハート,シャーリー・ワシントン,チキート,チエザール・ガラルド
アール・シー・エー・コロンビア・ピクチャーズ・ビデオ
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

『アイアンマンと不思議な仏像』
1973年・フィリピン・95分
監督/チェザール・ガラルド、シリオ・H・サンチャゴ
脚本/ジョセフ・ズッケロ
出演/ジェームズ・イングルハート、シャーリー・ワシントン、マリッサ・デルガド、チキートほか
原題『BAMBOO GODS & IRON MAN』

***

 一見して内容が予想できない、それこそ不思議なタイトル。原題を訳した『竹の神々と鉄人』でも何の映画かわかりません。ジャケットから判断して、1970年代にアメリカで興った黒人向けのブラック・スプロイテーション映画(黒人が白人を倒す、みたいな)風とでも申しましょうか。2名体制監督の一人は『ジュラシック・ジョーズ』(79年)、『彼女がトカゲに喰われたら』(87年)などのステキな作品群で日本の低予算映画マニアに愛される、フィリピンのシリオ・H・サンチャゴ大先生。そんなフィリピン製ブラック・スプロイテーション映画を、どうせDVD化されないとタカをくくりネタバレで紹介しましょう。


 マニラ郊外の豪邸に、チャイナ服を着るスキンヘッドの白人が住んでいます(情婦付き)。屋敷には中国の一流寺院と見まがう豪奢な仏殿が建立され、その前で彼が手を合わせ「ナンミョー、ヨーレンゲーキョーヨー」とデタラメなお経を唱えています。何をして食っているのか分かりませんが、悪徳企業のボスのようです。そんな中国かぶれのボスは、最後の行に「10世紀唐王朝時代に発明されたこの物質(何なのか不明)を使えば世界征服できるが、悪用すれば地球は滅亡する」と書いて自殺した中国人学者の日記を入手します。さっそくボスは部下を中国に派遣し、学者と共に埋葬されている件の物質入り革袋を盗掘させます。そんな時、世界チャンプが嘱望されるプロボクサーのジェファソンが、香港に新婚旅行でやって来ます。夫妻は骨董品屋で仏像を購入しますが、彼らの次の旅先がマニラと知った部下はケースの二重底に革袋を隠します(ん、何で?)。

 その頃、路地裏でオッパイ丸出しの女(ブサ)が3人のカンフー達にパンツを下ろされ輪姦されそうになっています。そこへ猿顏の小柄な中年男が現れ、めちゃめちゃキレの悪いカンフーで戦いますが、袋叩きにされ海に放り込まれます。男が溺れていると、偶然通り掛かったジェファソンが海に飛び込んで救出します。口が不自由なチャーリーという男は、ジェファソンに恩返しするため何度断られてもスッポンのように離れず、密航してマニラまで付いて来ます。そこでチャーリーは、ジェファソン夫妻の仏像を狙うボスの手下どもをタコ踊りみたいなカンフーでバッタバッタと倒してしまいます。これで晴れて夫妻に同行が許されたチャーリーは、ジェファソンの要望に応えカンフーを伝授します。

 その夜、仕方なく手下は夫妻の宿泊先から仏像を盗みボスに届けます。当然中は空で、伝達ミスによりケースに革袋が隠されている事を知らないボスは、ジェファソンが横取りしたと誤解します。革袋の奪還を命じられた殺し屋は、取材と称してジェファソンをトップレスのマッサージ嬢がいるいかがわしいサロンに連れていきます。やがて「革袋を出せ!」と腰にタオルを巻いた大の男達は、違う皮袋や尻を出しての見苦しい乱闘に発展します。

 警察が来て一旦休戦しますが、奥様がハネムーンを台無しにされた上にボスの情婦に誘拐されてしまいます。クライマックスはボスの屋敷で繰り広げられる大乱闘の続き。「ジェファソンVS殺し屋」「チャーリーVSボスの用心棒」、オマケにパンツ丸見えキャットファイトの「奥様VSボスの情婦」といった黄金カードです。チャーリーはヌンチャク(これまたヘタクソ)で用心棒を倒しますが、ジェファソンは殺し屋にボクシングが通用せず大苦戦。そこでチャーリーから教わったにわか仕込みのカンフーで挑むと、面白いようにキックが決まり始め形勢逆転! 素手の殺し屋もついにナイフを抜き、ジェファソンは傷だらけになりながらも袈裟固めで仕留めます。決まり手はボクシングでもカンフーでもなく、柔道技って何?

 駆け付けた警察官に取り囲まれたボスが観念すると、チャーリーが仏像ケースから見つけた革袋を警部が開いたので、全員が「ゴクッ」と一斉に注目します。警部は取り出した黒い粉の匂いを嗅ぎ指に付けてペロッ。そして中味を全部ザア~と地面に撒き、ライターで点火します。「ド~ン!」と小爆発が起こり、顔が真っ黒に煤けた警部が「ただの爆薬だ」。単なる火薬も千年前の人には現代人が抱く原水爆のイメージに匹敵し、世界を征服できると思い込んだのも無理はなかったのです。
 脱力した空気が漂う中、全員が互いの顔を見合わせると、ジェファソン夫妻もチャーリーも、そしてボスも顔が真っ黒け。「プッ」て感じで、みんな一緒に大爆笑、観ている筆者も釣られて大爆笑。するとチャーリーが大きな声を出して笑ってるではありませんか~!


 アイアンマンはジェファソンの事でしょうが、仏像は不思議でも何でもない単なる土産物でした。「竹の神々」というのは、仏像が竹製だったという事を指しているのでしょうか?

 さて、カンフーはド下手でしたが、空中回転やバク転などのアクロバティックなアクションは抜群だったチャーリー役のチキートは、フィリピンでは有名なコメディアンでサンチャゴ作品の常連でした。肝臓癌で逝去した1997年7月2日をフィリピンのメディアは「笑いが死んだ日」と称したそうです。そういえばオープニングでは名前がトップ扱いでした。

 この作品のビデオは20年くらい前に中古ビデオ屋でタイトル買い(500円)したものですが、思わぬメッケモノでした。コテコテな古典ギャグのラストでしたが、見終えた直後にとても幸せな気分になれました。未知の佳作が楽しめ、チキートにも出会えました。これぞビデオ漁りの醍醐味なのです。

(文/シーサーペン太)

シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム