【無観客! 誰も観ない映画祭#03】追悼・千葉真一~その3『ゴルゴ13 九竜の首』
- 『ゴルゴ13 九竜の首』
- 千葉真一,志穂美悦子,エレーナ・スン,ダナ,中島信昭,杉本功,野田幸男
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『ゴルゴ13 九竜の首』
1977年・東映、嘉倫電影・93分
監督/野田幸男
脚本/中島信昭、杉本功
出演/千葉真一、嘉倫、鶴田浩二、志穂美悦子、ジェリー伊藤ほか
原作/さいとう・たかを『ゴルゴ13』
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今年8月19日、新型コロナウィルスによる肺炎のため、不世出のアクションスター・千葉真一がこの世を去りました。ニュースやワイドショーで追悼特集を散々やっていましたが、紹介されるフィルモグラフィーは『キイハンター』、『仁義なき戦い』シリーズ、空手映画と柳生十兵衛役といった定番の作品ばかりでした。一般大衆向けの番組なので仕方ないですが、全国の千葉真一信者には「アレもコレも紹介されていない」と不満タラタラだった事でしょう。そこで当コラムのスタートは、テレビで触れてもらえなかった千葉真一主演作品を厳選してシリーズでお送りしています。
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2021年9月24日、偉大なる劇画作家さいとう・たかをが惜しまれて永眠しました。その代表作は何と言っても『ゴルゴ13』ですが、実は我らの千葉ちゃんが主人公デューク東郷を演じていたのです。
東映から『ゴルゴ13』の映画化オファーを受けたさいとう・たかを先生は、自分の創作が翻案されるのを嫌ってか(原作者あるある)全く乗り気じゃありませんでした。そこで先生は、東映を諦めさせるためムチャを言います。「オール海外ロケ」、ゴルゴのモデルにした「高倉健の主演」。これ以外なら映画化を許可しないというのです。だが東映はすんなりと二つ返事で条件を呑みました。ならばと先生は自ら綿密に書き込んだ脚本を提出し、演出にも口を出します。ところが後のアカデミー賞監督(『敦煌』88年)・佐藤純彌もプロ、その通りには撮りません。大先生の顔色を窺いながらの製作は、東映プロデューサー・俊藤浩滋も相当頭を抱えたと聞きます。
ゴルゴのモデルにされて満更でもない高倉健にしてみれば、珍しいロケ地のイランに行けて撮影を楽しみましたが、先生には不満の出来だったようです。映画は1973年に公開されますが興行収入はイマイチだったようで、どういうつもりか東映は全く似ていない千葉真一をゴルゴに抜擢して再挑戦します。物語は麻薬シンジゲートの内輪もめにゴルゴ13が絡む話でした。
マイアミに住む麻薬シンジゲートのボスは、麻薬の横流しで私腹を肥やす香港支部長・周の暗殺をゴルゴに依頼します。だが周の身辺を洗う香港警察のスミニー刑事と事あるごとに遭遇し、目を着けられてしまいます。スミニー刑事役の嘉倫(がるん)は共同製作する嘉倫電影の代表でもある香港スターで、言わば千葉真一とのダブル主演。日本公開版では人気声優の広川太一郎が声を当てています。
スミニー刑事の部下・林玲は、周の愛人が経営するナイトクラブでナイフ投げショーをして情報を集めています。この潜入捜査官を演じたのが志穂美悦子。この後どうやって千葉ゴルゴと絡んでいくのか楽しみ......と思っていたら、敵アジトで空手を振るい大暴れしますが前半で早々と殺されてしましました(泣)。エッちゃんの無駄遣いです。
一方ゴルゴがアーマライトM16 で周に照準を合わせていると、引き金を引く前に何者かが狙撃してしまいます。南米一の女スナイパー・火喰い鳥に獲物をさらわれたのです。入手した麻薬シンジゲートのリストをFBIに売って、アメリカ亡命を画策していたポラーニア(架空の国)領事ポランスキーが雇った殺し屋でした。ボスは報酬を上乗せして、ゴルゴの標的はポランスキーに変わります。
火喰い鳥を始末したゴルゴがポランスキーを追って日本に行けば、そのゴルゴをスミニー刑事も付け回します。再び舞台は香港に戻りますが、ゴルゴはポランスキーが雇った新たな殺し屋との戦いで大怪我を負います。ここで匿ってくれたのが、以前チンピラから救ってやった水上生活者の女・紅蘭(1973年のミス香港・孫泳恩)でした。自分の船にゴルゴを隠し「抱いて」という運びです。
やがて紅蘭の前から姿を消したゴルゴは、当時「一度入ったら出てこれない」と言われた悪名高きスラム街・九竜城(正しくは九龍城砦)へ寄ります。出迎えたのはアイパッチをした鶴田浩二。九竜城に住み着き世界中の殺し屋から武器調達を依頼される謎の日本人です。「おめえさんを見てると、昔の俺に会ったような気がするよ」なんて言ってますから、元は殺し屋だったようです。この九竜城はセットではなく本物で、「映画史上初めて九竜城にカメラが持ち込まれた」が作品のウリの一つでした。
クライマックスはポランスキーがマカオ沖の無人島に建造していた監視カメラ付き要塞での、香港警察を交えての三つ巴の戦い。ラスト、ゴルゴはFBIのヘリコプターで亡命していくポランスキーの眉間を見事に打ち抜きます。脇には彼の幼い娘も乗っていたのも関しない非情の銃弾でした。ポランスキー役は、『モスラ』(61年)の悪徳興行師など外国人悪役でお馴染みのジェリー伊藤です。
香港でもソニー・チバとして人気者だった千葉ちゃんですが、原作を知らないアチラのファンは、異様なメイク(笑)と喜怒哀楽を出さない無口でクールな演技に戸惑ったのではないでしょうか。通常のソニー・チバは血がたぎるような熱さですからね。我々も角刈りではない、なぜかパンチパーマの千葉ちゃんには違和感タップリでした。
完全に千葉ちゃんのゴルゴですが、高倉健を想定して描いたさいとう・たかを先生がどう見たのか気になるところです。そこはさすが先生、ちゃんと理解していました。カンフーアクションに負けていない格闘シーン、走行する二階建てバスの屋根からの飛び移り(通行人もビックリ)、崖でロッククライミングしながらの狙撃。これらを先生は「ハードなアクションのため日々トレーニングを欠かさない姿勢は、テリトリーこそ違え、常に狙撃のために訓練をするゴルゴが持つ高い職業意識と深い共通性をみた」と絶賛しました。
最後に監督について一言。野田幸男は梅宮辰夫主演『不良番長』シリーズ(68~72年)などで東映のドル箱監督でしたが、ワンマン体制により予算・日数オーバーで会社と現場を疲弊させ、一旦テレビ番組制作に回されますがそこでも同様の制作姿勢。野田の親族が東映の融資元・住友銀行の幹部だったため、岡田茂東映社長は組合運動にも熱心な彼を切りたくても切れませんでした。禊を終えた野田は『東京ふんどし芸者』(75年)で復帰しますが、変わらぬ態勢に堪忍袋の緒が切れた岡田社長以下東映首脳は「野田には二度と映画は撮らせない」と、ついに撮影所出入り禁止の最後通牒を突き付けます。結局はテレビ現場が死に場所となり、野田が最後に撮った劇場作品が『ゴルゴ13 九竜の首』だったのです。
(文/シーサーペン太)
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酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。