もやもやレビュー

『月刊予告編妄想かわら版』2021年12月号

『明け方の若者たち』(12月31日公開)より

毎月下旬頃に、翌月公開の映画を各週一本ずつ選んで、その予告編を見てラストシーンやオチを妄想していく『月刊妄想かわら版』四回目です。
果たして妄想は当たるのか当たらないのか、それを確かめてもらうのもいいですし、予告編を見て気になったら作品があれば、こんなご時世ですが映画館で観てもらえたらうれしいです。
12月公開の映画からはいつもより一作品多い、この五作品を選びました。


『彼女が好きなものは』(12月03日公開)
公式サイト:https://kanosuki.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=TpYpgO0W_HY

『彼女が好きなものは』メイン写真.jpg

 浅原ナオト原作『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』を草野翔吾監督が映画化した『彼女が好きなものは』。「ゲイ」であることを隠して生きている高校生の安藤純(神尾楓珠)と「BL」好きなことを秘密にしている同級生の三浦紗枝(山田杏奈)。
 書店でぶつかった際に紗枝が持っていた「BL」コミックを落とし、純がそれを拾ったことで急接近していく。そんな二人が制服のまま手をつないで歩いたり、浴衣を来て夏祭りに行くなどデートをするシーンもあります。しかし、浴衣の純が年上男性とキスをしようとしているのを見た紗枝が投げた水ヨーヨーが二人の顔に当たり破滅するシーンもあります。
 ここからは妄想です。純は紗枝に「BL本貸してよ、僕も三浦さんのこと理解したいから」と告げたり、全校集会でマイクを持った彼女が「私はBLが大好きです」と涙ながら訴える場面などもあり、ふたりが「個」の人間として向き合って、互いを理解しようと変わっていく展開だと思います。
 本当の意味での多様性とはなにか?ということを作品を通じて問いかけられているようにも感じます。多様性とはまず一人の人間として他者を受け入れ、自分も受け入れてもらうことが前提にあります。それは案外思った以上に難しいものです。この映画はそれを教えてくれるのではないでしょうか?

『彼女が好きなものは』サブA.jpg12月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:バンダイナムコアーツ、アニモプロデュース
©2021「彼女が好きなものは」製作委員会


『ラストナイト・イン・ソーホー』(12月10日公開)
公式サイト:https://lnis.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=BIfolV5sXeA

LNISメイン_s.jpg

 『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督最新作『ラストナイト・イン・ソーホー』。ファッションの勉強をするために憧れのロンドンにやってきたエロイーズ。夢の中で60年代のロンドンのソーホーにいた彼女は、金髪の魅惑的な女性・サンディと体や意識が徐々にシンクロしていく。
 エロイーズは夢を何度も見ることで次第に現実生活でも明るい性格に変化していくようです。しかし、夢の中でサンディが殺されるのを目撃してしまった彼女は実際に起きた事件なのではと当時のことを調べ始めるのですが。現実と夢(過去)が交差するサイコホラーのようです。
 ここからは妄想です。予告編ではガラスの向こう側からガラスを叩き割ってサンデイを抱きしめるエロイーズの姿もあります。そう考えると過去にエロイーズが完全にタイムスリップしてサンディを救おうとする展開になっていくのでしょう。
 殺されて成仏できず無念の想いを抱えたままのサンディ、そして捕まらないで年を取って生きている殺人鬼の内心では捕まりたいと思っていたその願いが重なり、エロイーズをタイムスリップさせたのかもしれません。いや、ふたりの女性たちの世界すらも殺人鬼の見ていた夢というオチもありえるかもしれません。もしかしたらサンディが現実(現在)にやって来るそんなラストかもしれません。

サブ01.jpg12月10日(金)よりTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED


『偽りのないhappy end』(12月17日公開)
公式サイト:https://itsuwarinonai-movie.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=liMLW59Ce40

1仲万美、鳴海唯_メインスチール.jpg

 『ヒミズ』から10年間、園子温監督作品の助監督を務め、師事してきた松尾大輔の長編デビュー監督作品『偽りのないhappy end』。故郷の滋賀にずっと帰らない東京に住んでいる姉のエイミ(鳴海唯)の元に、地元から妹のユウ(河合優美)がやってきます。10年ぶりに姉妹で一緒に暮らすことになるのですがが、ユウが突如行方不明になってしまいます。
 エイミは同じようにいなくなった妹を探すヒヨリ(仲万美)と出会います。ヒヨリが「本当のこと言って」と男(カトウシンスケ)に包丁を向けている場面もあります。また、琵琶湖のほとりで姉たちと男とのやりとりも予告編で見られます。
 ここからは妄想です。二人の姉たちは妹がいなくなったことで初めて、自分の妹のことを何も知らなかったと気づいたのがわかるシーンも予告編にあり、妹たちがいなくなったこととその部分がミステリーのように展開していくはずです。とすれば、妹たちの願いや欲望はなんだったのでしょう。 
 もしかしたら、妹たちは男によってどこかに送られて、知らない誰かの姉や妹のフリを演じさせられていたそんな可能性も妄想できます。いつも妹だった彼女たちが望んでいたことは「姉」になりたい、ということだったのかもしれません。「妹」がいなくなって「姉」でなくなった彼女たちははじめて姉妹関係から解き放たれて自分の孤独を知る、そんなラストシーンではないでしょうか?

2鳴海唯_仲万美_橋1.jpg12月17日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー
配給・宣伝:アルミ―ド
© 2020 daisuke matsuo


『エッシャー通りの赤いポスト』(12月25日公開)
公式サイト:https://escherst-akaipost.jp/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=Fp8iF9v54KU

Escher_main1.jpg

 園子温監督×役者選抜51人による『エッシャー通りの赤いポスト』。映画『仮面』の出演者オーディションが開催されることになり、まだ「何者でもない私たち」はそれぞれの想いと願いを込めて赤いポストにオーディション用応募封筒を入れていく。
 参加者たちが監督やスタッフに自己アピールしていく中で、ある女性が「父が死んですっきり」「全員死ね」と急にスタッフたちを殴りつけ始める行動に出ます。それを見た女性監督が「あの子を採用するよ」と助監督に告げます。しかし、プロデューサーのような初老の男たちには違う思惑があるようで、果たして映画は完成するのでしょうか?
 ここからは妄想です。自主映画からキャリアをスタートさせた園監督が今あえてインディーズ映画を作る意味、それは映画を作りたいという初期衝動が再び監督の中に生まれたからなのかもしれません。19年に心筋梗塞を発症し、一時的に生死を彷徨った経験が自分を「再生」させ、大作からのインディーズ作品と自分が作りたい映画は何でも撮っていこうと改めて決心したようにも予告編を見ると感じられます。
 予告編を見るとゲリラ撮影に見える渋谷のスクランブル交差点でのシーンなど、いくつも過去作へのセルフオマージュも感じさせつつ、若い役者との映画製作を楽しんでいる、そんな気持ちが画面が強く伝わってきます。絶対観ます。あ、妄想し忘れました。

Escher_main2.jpg12月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
配給・宣伝:ガイエ
ⓒ2021「エッシャー通りの赤いポスト」製作委員会


『明け方の若者たち』(12月31日公開)
公式サイト:http://akegata-movie.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=EyXKlecR9y4

明け方の若者たち:メイン.jpg

 カツセマサヒコのデビュー小説を松本花奈監督が映像化した『明け方の若者たち』。飲み会で出会った彼女(黒島結菜)から僕(北村匠海)のスマホへ「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」というメッセージが届く。ナレーションで「16文字から始まった、沼のような5年間」という言葉と共に僕と彼女のデートシーンや次第に距離を縮めていき、恋人になっていく様子を予告編で見ることができます。
 僕にとっては「彼女」が世界そのものになっていき、また入社した会社でも仲間ができて羨ましいと思える二十代を楽しく過ごしていくようです。
「楽しいことは全部やっておかないと。なんだっていつかは終わるよ」と花火を一緒にしている時に彼女が言うシーンも印象的です。
 ここからは妄想です。「沼のような5年間」というようにこの物語は20代後半に終わるのでしょう。「なんだっていつかは終わるよ」という彼女は急に僕の前から消えてしまう。こういうセリフをいう女子は主人公の前から基本的にいなくなって想い出だけを残します。「青春あるある」のひとつではないでしょうか?
 タイトルにある「明け方」というのは寝ないで遊び続けていた時間のように感じられます。それは青春と恋の時代であり、やがて彼らは違う人生を歩んで、昼間にどこかでばったり出会うものの、目だけ合ってすれ違うそんなラストシーンかもしれません。

明け方の若者たち:サブ1.jpg2021年12月31日(金)より全国ロードショー
配給:パルコ
ⓒカツセマサヒコ・幻冬舎/「明け方の若者たち」製作委員会

(文/碇本学)

- Profile -
1982年生まれ。物書き&Webサイト編集スタッフ。「水道橋博士のメルマ旬報」で「碇のむきだし」、「PLANETS」で「ユートピアの終焉──あだち充と戦後日本の青春」連載中です。園子温監督が手がけられた映画『リアル鬼ごっこ』のノベライズ『リアル鬼ごっこJK』、Amazonプライムドラマ『東京ヴァンパイアホテル』エピソード8&9脚本を執筆しています。

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム