子供にみせる親の背中『約束の宇宙(そら)』
『約束の宇宙(そら)』 4月16日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
本作は宇宙飛行士の母親と娘の絆の物語であり、娘の成長ストーリーであると共に家族の成長ストーリーにもなっている。母親の職業は宇宙飛行士ということで、身近なものではないし感情移入しにくいのではないかという思いもあったが取り越し苦労であった。
実話ベースということもあり、子育てをする全ての人に性別を越えて共感できる物語に仕上がっていた。また、欧州宇宙機関の協力のもと実際の関連施設を利用し撮影をしたことで、普段見ることの出来ない宇宙飛行士の過酷な訓練の様子なども収録されている。
本作を監督したのは『裸足の季節』の脚本家として有名なアリス・ウィンクール。自身も幼い子供の母親ということで子供と母親の関係についてリアルな視点で描かれていた。
宇宙飛行士の訓練や実際に宇宙へ行くとなると年単位で子供に会えなくなる。劇中で「出張にいくのとは違う。地球から離れる」という台詞が本作ならではの設定であり印象的だった。テレビ電話ができても実際に娘に会えない日々を過ごすだけでも精神的にはとてもキツい。劇中でもキツいトレーニングの合間に癒やしを求めて子供に連絡をこまめにとるが、余計に心配事が増えていくという母親の心中が痛いほど理解できて苦しくなった。子育て中の親の皆さん、また自分の親との幼少期を思い返して「何日間、親子が離れて過したことがありますか?」
私事にはなるが、一年前にコロナ下の出産を体験した際に当時2歳の娘と思わぬ形で1週間全く会うことも出来ずに生活した。託児所に預けた経験もなく12時間も離れたことがなかった私にとって心配な時間であった。だが、結果私が居ないことに泣くこともなく子供は父親と楽しく過ごしていたようだ。
子供にとっても母親と離れて過ごす経験は不安な日々になるだろう。だけど、親が心配するより子供はずっとたくましい存在なのではないだろうか?親としての心配は絶えないし子供に頼りすぎてはいけないのかもしれない。だが、子供は置かれた環境を理解して順応するのも大人よりずっと早く成長速度も驚くほど速い。親の知らない世界の中で葛藤し成長している。劇中でも友達が居ない娘を心配していたがいつの間にか好きな人までいたり...。
親も子も一人の人間として成長してゆく姿が生々しく美しいとさえ思えた。
親としての責任もあるけれどお互いひとりの人間として接することも必要で、約束したことを守る行為は人間同士の絆を深めることになる。どんなに肉体的な距離が離れてもお互いを思う心の距離が離れなければ親子はうまくいく。これは、男女の恋愛ではなく親子の物語だからこそそう言える部分もあるし、実際に家族を残し宇宙へ旅立った女性宇宙飛行士がいる事実がエンドロールで突きつけられることで。よりリアルさが増すという上手い演出もあった。
宇宙をテーマにした本作の音楽を、世界で活躍する坂本龍一が担当していた。日本人の名前があることに嬉しく思った。そして、本当に素晴らしい音楽なので劇場でリアルな音を楽しむのもおすすめだ。
本作を鑑賞して親子の愛と絆は日々の生活の積み重ねであり、一日にしてなるものではないと感じた。親であるまえに一人の人間として自分自身を持ち熱中し語れる大切なものを持つことは素晴らしいことだ。子供は一番近くで親の働く姿をみていて一番の理解者にもなってくれるかもしれない。親子の成長を通して子供とのこれからの生活を考える良い機会になった。
(文/杉本結)
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『約束の宇宙(そら)』
4月16日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー!
監督・脚本:アリス・ウィンクール
出演:エヴァ・グリーン、マット・ディロン、ザンドラ・ヒュラー ほか
配給:ツイン
原題:Proxima
2019/フランス/107分
公式サイト:http://yakusokunosora.com/
ⒸCarole BETHUEL ⒸDHARAMSALA & DARIUS FILMS