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西宮から全国へ届け!『にしきたショパン』

『にしきたショパン』 3月20日(土)より全国順次ロードショー

兵庫県西宮市、現在では関西の住みたい街ランキングの上位に名前があがる西宮北口、通称『にしきた』を舞台に世界へ羽ばたこうと必死に生きる男女のピアニストの物語。
なんと本作、ミラノ国際映画祭で外国語映画部門最優秀長編作品賞を受賞した。
他にもベルギーアントワープ国際映画祭での審査員賞受賞に始まり、コソボ、アメリカ、日本、スロバキア、インド、今回のイタリアミラノ国際映画祭と世界の映画祭で受賞、オフィシャルセレクション選出と高い評価を得ているのだ!

高校時代二人夙川公園①.jpg

凛子と鍵太郎(けんたろう)は、小さい頃からの幼なじみであり、鍵太郎のピアノの腕は、門下生の中でも常に一番で、作曲もこなす天才肌であった。鍵太郎の大きな手が奏でるラフマニノフは素晴らしく、テクニックでは誰にも負けない実力を持っていた。対して凛子は、ピアノは大好きだが、不器用でコツコツと努力するタイプ。彼女はショパンに憧れていた。
だが、「阪神淡路大震災」そして「局所性ジストニア」というピアニストとしての道を閉ざされかねない大きな試練が二人を襲う。葛藤し、苦悩しながらも二人は「魂に響く音」を追い求めていく。

鍵太郎ピアノ苦悩.jpg

本作のテーマは2つ。「阪神淡路大震災の記憶を語り継ぐ」「左手のピアニストを応援する」どちらのテーマもバランス良く扱っていることが、作品が世界で高く評価されたポイントだったといえる。本作のプロデューサーを務める近藤修平の小説「マスター先生」が題材となっているようだ。

本作、常に音に溢れている。だからといってどこにも嫌な感じはなく音が空気のように作品に溶け込んでいる。素直になれない年頃の男女のモヤモヤした感情さえ音楽と共に大きくなったり小さくなったり、不安定だけど絶妙なバランスで作品を支えている。『にしきたショパン』というだけあってどの楽曲も聴きごたえがある。それもそのはず、劇中で使用されるラフマニノフのピアノ協奏曲第二番ピアノソロ編曲版は、のだめカンタービレでも録音、編曲を手がけた沼光絵理佳によるもの。
また、左手のピアノ曲の作曲で知られる作曲家、近藤浩平の音楽も全編を支えている。

私が本作で気に入ったシーンは2人が口論をするシーン。画面に映し出されるのは鏡に写る鍵太郎。この演出は映画好きにはたまらない撮影方法の1つだったりする。
そして、六甲山の風景から場面が切り替わる演出も地元民には嬉しい。

日本では今のところ小さなミニシアターでこっそり上映する予定しかないという...。『カメラを止めるな』の時のようにクチコミからヒットして大きな劇場で素晴らしい音響設備の中で鑑賞したい!長編作品は初監督という竹本祥乃(よしの)監督。これからの活躍が期待される監督の1人であることは間違いない。
(文/杉本結)

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凛子夙川ラスト.jpg

『にしきたショパン』
3月20日(土)より全国順次ロードショー

脚本・編集・監督:竹本祥乃
出演:水田汐音、中村拳司、ルナ・ジャネッティ、泉高弘、野々村亜梨沙 ほか

2020/日本映画/90分
公式サイト:https://office-hassel.com/n-chopin/
(c)2020 Office Hassel

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