もやもやレビュー

深い闇に堕ちていく、因果応報の物語『聖なる鹿殺し』

聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア(字幕版)
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア(字幕版)』
コリン・ファレル,ニコール・キッドマン,バリー・コーガン,ラフィー・キャシディ,アリシア・シルヴァーストーン,ヨルゴス・ランティモス
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ずいぶんと奇妙で、歪んだ話である。見ているうちに酸素が少しずつ、少しずつと薄くなったような気がして、息苦しい。

アメリカ・オハイオ州シンシナティの心臓外科医スティーブン・マーフィー(コリン・ファレル)は、妻で眼科医のアナ(ニコール・キッドマン)、娘のキム、息子のボブと4人家族で暮らしている。

スティーブンは、とあることがきっかけで知り合った16歳の少年マーティン・ラング(バリー・コーガン)に、時計をプレゼントしたり食事を奢ったりと親切にしていた。ゲイを隠している、のではなく、実はマーティンの父はスティーブンの元患者で、酒を飲み手術をしたため死亡。罪滅ぼしからの親切心なのであった。

ある朝突然、ボブが足に痛みを覚え歩けなくなる。マーティンはボブの病室へ見舞いに訪れた後、スティーブンにこう告げる。「先生は僕の家族をひとり殺した。だから家族をひとり殺さなければならない。殺さなければ、みんな死ぬことになる。」そして次はキムも歩けなくなって......。

まるで神目線のような引きのカメラワーク、耳の奥をくすぐるような不協なBGM、終止不穏な空気感。マーティンは一体どんな手を使っているのか、それが「呪い」なのか「毒」なのか、直接的な説明は一切ない。輪郭のない不気味すぎる世界に、ずるずると引きずり込まれて行くようだ。一度見たら、二度と忘れることができない狂作である。

(文/峰典子)

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