もやもやレビュー

知られざるフランスの今。『レ・ミゼラブル』

『レ・ミゼラブル』 2月28日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

本年度アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた本作。時代が違えば間違いなく受賞も夢ではなかったのではないかというくらい素晴らしい作品。その証拠にカンヌ国際映画祭では審査員賞を受賞している。

題名にもなっている『レ・ミゼラブル』と聞いて多くの人が思い浮かべるのはミュージカルの存在だろう。世界中で何度も再演されるこの有名なヴィクトル・ユゴーの傑作『レ・ミゼラブル』の舞台としても知られるモンフェルメイユ。現在はパリ郊外の犯罪多発地区の一部とされており、私たちが思い描く「花の都パリ」のイメージとはほど遠い。現在そこに住む住人達は移民や低所得者が多く、犯罪多発地域と化している。この映画からみえる現代の「レ・ミゼラブル(悲惨な人々)」の行き着く先は一体どこなのか注目してほしい。

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本作は、ベテラン警官2人が率いる犯罪防止班に一人の警官が新たに加わることからはじまる。新入りは、パトロールをする中で街の不穏な空気を感じつつ、ギャング同士の抗争がいつ起こってもおかしくない状態にあることを認識していく。そんな時に少年がライオンの子供をサーカス団から盗むという事件が起こる。この少年を捕まえようとしていた時に思いも寄らぬハプニングが発生し物語の展開がよからぬ方向へと進んでゆく。
衝撃のラスト30分。全くラストが予想できない展開に息をするのも忘れるだろう。

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この作品の監督・脚本を務めたラジ・リ監督はなんと本作が初長編作品。長く短編やドキュメンタリー作品を製作していた。気が早いかもしれないが、本作をみて次回作に期待せずにはいられない。今後の映画界において目が離せない監督のひとりになったことは確かだ。監督自身が本作の舞台となっているモンフェルメイユに長く住んでおり、この映画で起こった多くのエピソードが実話に基づいて制作されたというから驚きだ。

本作開始数分後に登場するドローン撮影のシーンに違和感を感じながらも、最近の流行にでものったのか?という気持ちで軽く受け流して、人間関係の把握に新入り警官と共に奔走していたら、このドローン撮影は中盤から終盤にかけて大きな意味があったことが判明する。
鑑賞後、計算されつくした脚本に大満足な気持ちと共にフランスという国の知らなかった現在を知り驚いた。これは他国の他人ごとであってはいけない。深く考えなくてはいけない社会問題をただのフィクションではなく映画という形にして全世界に伝えられた意味ある1本だ。

(文/杉本結)

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『レ・ミゼラブル』
2月28日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

監督・脚本:ラジ・リ
出演:ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール ほか
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES

2019/フランス/104分
公式サイト:http://lesmiserables-movie.com
©SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

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