邦画の悪習が過積載『サニー/32』
- 『サニー/32 [DVD]』
- 北原里英,ピエール瀧,門脇麦,リリー・フランキー,白石和彌
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ことし3月にピエール瀧がコカイン使用の疑いで逮捕されたので、貸出や配信が停止になる前に主演作を何か借りようと、目についたのが本作だった。何の気ない選択から良作を引けば「映画っていいものだなぁ」という気分になれるのだろうが、昔起きた事件をネタに使う辺りに微妙な違和感を覚え、オチのどうしようもなさに脱力。映画なので何をネタにしようが面白かったり充実感があったりすれば万事こともなしなのに、それがないのでは下世話さだけが際立つ。まぁ逮捕された人間が出る映画を観ようという動機の人間が言う台詞ではないが。
冬のある日、24歳の誕生日を迎えた中学校教師の藤井赤理(北原里英)は柏原(ピエール瀧)と小田(リリー・フランキー)の2人組によって、雪深い山麓の廃屋へ拉致される。拉致される覚えがない赤理は困惑するが、2人は彼女を多くの狂信者を生んだ11歳の小学生による同級生殺害事件の犯人「サニー」と信じていた。赤理は何とか逃れようとするが......という内容。ネタバレしても差し支えないと思うが、あらすじを書き進めるほどに収拾がつかないザマになっているため割愛する。
小学生による同級生殺害事件は2004年に起きた長崎・佐世保が元ネタだし、出てくるネット上の狂信者は当時2ちゃんねるで騒いでいた連中のことだろう。現実の事件を扱って表層を触るだけなら映画なんて面倒なものに仕上げず、そこらの居酒屋で酒でも飲みながら戯言を吐けば済むだけだ。それくらい内容が軽い。作中にネットやらドローンによる動画配信者とか現代っぽい演出もしているものの、あくまで「ぽい」の範疇を出ず。よろず安っぽい。
おまけに終盤では赤理が状況を説明するかのような台詞を泣きながら連発するという邦画の悪習まで出てくる始末。2000年代初頭に嘲笑とともに語られていた「邦画あるある」をそろそろ2020年になろうという時代にコンプリートされても......。序盤の柏原と小田による狂気に染まった暴力シーンは面白かっただけに、中盤からのダレ具合が悲しい。
量産型の恋愛漫画の実写映画も酷いが、少なくともアレにはターゲット層を喜ばせようという演出はそこかしこに施されている。ところが本作は観客を喜ばせようなんて殊勝な了見さえ垣間見られない。そらネット上で邦画に対する嘲笑であふれますわ。
(文/畑中雄也)