もやもやレビュー

もっと自分を愛してあげようと思った『マルコヴィッチの穴』

マルコヴィッチの穴 [Blu-ray]
『マルコヴィッチの穴 [Blu-ray]』
ジェネオン・ユニバーサル
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一生のうちに一度だけ、性別を変えることができたら......はたまた別の誰かになれたら。これまであまり考えたことはありませんでしたが、先日水族館で一生のうちにメスからオスへと性転換をするキンギョハナダイと出会い、そんな人生の展開も面白そう、なんて思ってしまいました。彼ら、生まれはメスで、群れの中のオスが減ると子孫を残すためにいちばん強いメスがオスに姿を変えるのだとか。『マルコヴィッチの穴』(1999)もある種の変身術のお話です。

本作の主人公は、冴えないけれども有能な操り人形師のクレイグ(ジョン・キューザック)。収入を求めて彼が就職したのは、7と1/2階という謎めいた階にある、就職早々腰痛になりそうな低い天井が特徴的なレスターコープ社。ある日、クレイグは自分のオフィススペースの壁にドアを発見します。ここに入り込むと、俳優であるジョン・マルコヴィッチの目から彼の生活が覗き込めるという空前の異空間!そうして、クレイグはまんまとこの「穴」の虜に。

終始不気味なトーンに包まれた本作。あまりのシュールさに笑ってしまうシーンもありますが、クレイグがマルコヴィッチを操り、マルコヴィッチに扮して生活を送りはじめるところからの展開は悲しすぎます。嫁のロッテ(キャメロン・ディアス)がいるというのに、オフィスで一目惚れしたマキシン(キャサリン・キーナー)とはマルコヴィッチを通じたセフレに。マルコヴィッチの体を借りたまま操り人形師の夢も叶えますが、そこで浴びる脚光は、マルコヴィッチのビッグネームがあってこそではあるまいか...。だって、ありのままの姿では、マキシンに相手にもされなければ、自分の才能にも気づいてもらえていない。もはや、自分を肯定するためにマルコヴィッチの穴にい続けているよう。

誰かに扮するのもたまにはいいけど、何事もほどほどが適宣なのでしょう。結局は、人間である限り、じぶんと向き合うしかないのです。でも、願わくば、あなたはあなたのままでいいのよ、とロッテちゃんから言って欲しかったものです。でもそれでは映画が成立しませんね。とほほ。何はともあれ、鑑賞後にはますますじぶんを愛してあげようと思える映画です。

(文/鈴木未来)

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