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優雅な母娘の成れの果て『グレイ・ガーデンズ』

Criterion Collection: Grey Gardens [DVD] [Import]
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NYの富豪が暮らす地として有名なイースト・ハンプトンにある広大な屋敷「グレイ・ガーデンズ」に暮らす母娘を、ドキュメンタリー映画の作家チーム・メイスルズ兄弟が撮影した、1975年公開の『グレイ・ガーデンズ』を紹介したい。

登場するのは、ブーヴィエ家の出身であるイーディス母娘である。ブーヴィエ家といえば、ケネディ大統領夫人となったジャクリーンの実家だから、地元ではよく知られる一家だったのだろう。ジャクリーンの叔母にあたる母ビッグ・イーディは、歌手をめざしながらも、上流階級にふさわしくない性格だと夫から捨てられ、孤独の身になる。その後、ピアニストを家に住まわせ、気ままに暮らすも(愛人だとか、ゲイとのプラトニックな関係だったとか諸説あり)、結局は彼もビッグ・イーディーを見限って家を出て行ってしまう。絶世の美人だった娘リトル・イーディは、女優の夢を追い一度は家を出るが、恋も仕事も母に妨げられ、結局は自宅に戻ってくる。

そこにあるのは、うだつの上がらぬ同居生活だけである。恐ろしいほどに生活力のないふたりは、料理も掃除もしない。食事はクラッカーにパテを塗って囓るだけ。ゆえに庭は荒れ地となり、家は朽ち果て、猫やアライグマの巣窟となっていく。家もヤバいが、それ以上に目が離せないのがファッションである。脱毛症だったリトル・イーディは、常にスカーフやセータを頭に巻き、家の中でもミンクの毛皮をまとう。誰が来るわけでもないのに......。当時のファッション業界に衝撃と影響を与え、カルト的な人気だというのも頷ける。

子離れできない母親と親離れできない娘が、現実を見ることはない。「貧乏でも満足している人間は金持ち、それとも非常な金持ちです。だが、大金持ちでも、いつ貧乏になるかとびくついている人間は、冬枯れのようなものです」というのはシェイクスピアの言葉だが、ふたりの心は果たして豊かだったのだろうか。オリジナル版だけでなく、ビッグ・イーディをジェシカ・ラングが、リトル・イーディをドリュー・バリモアが演じる映画版も最高。どちらを見ても、衝撃を受けることは間違いなし。

(文/峰典子)

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