もやもやレビュー

自分の歴史は、自分だけのもんじゃない。『陽のあたる教室』

陽のあたる教室 [DVD]
『陽のあたる教室 [DVD]』
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 私ごとですが、あと三ヶ月ほどで大学を卒業します。終りが近づくと、過去を振りかえりたくなるものです。そんな中で観たのが、『陽のあたる教室』です。

 この作品では、一人の男の約30年間の教師生活が描かれています。作曲家になる夢を持ちつつも生活のため、仕方なく高校の音楽教師になったグレン・ホランド。先生という職なら定時に帰り、作曲活動もはかどると計算していたホランド先生でしたが、そのもくろみはすぐに頓挫。補習や居残りの生徒の世話などで、学校の仕事に忙殺されていくことになります。悩む先生でしたが、そんな日々の中で少しずつ、「音楽のすばらしさ」を伝えることに情熱を見つけ出します。1960〜1990年代のアメリカでの史実も交えられていることで、ホランド先生の人生はより現実味を持った物語として、映し出されています。

 本作のラスト、定年を向かえ先生の職を退くことになったホランドには、ある素敵なプレゼントが用意されていました。それは、それまでの全ての教え子、同僚の教師、家族が集まり、そして楽団まで用意された、ホランド先生が自身の曲を指揮するためのコンサートの場でした。その際、ある人が演奏に先立ち、先生にこんな言葉を投げかけます。 

「ホランド先生は私をふくめ、大勢の人間の人生を変えました。先生はご自分の人生を誤ったと考えられているかもしれません。富もなく、この地域を別にして有名でもありません」

 作曲家になる夢ではなく音楽教師として生きてきたことを、先生が後悔しているんではないか、そう語ります。そして、こんな言葉を続けます。

「それでご自分を人生の失敗者とお考えなら、大きな間違いです。先生は富や名声を超えた成功を収められたのです。見てください。あなたはここにいる全員の人間の人生に触れ、一人一人をより良い人間に育てたのです」

 私たちこそが、あなたが作り上げた音楽である。先生に贈られたスピーチは、ホランド以外の人にも当てはまるものじゃないかと思います。自分の歴史は、他の人の歴史にふれ、その一部にもなっている。寂しさだけじゃなく、ほっこりした心持ちで卒業を迎えられそうです。

(文/伊藤匠)

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