もやもやレビュー

『恋はデジャ・ブ』を観て、「日常」をちゃんと生きようと思った。

恋はデジャ・ブ [DVD]
『恋はデジャ・ブ [DVD]』
ビル・マーレー,アンディ・マクドウェル,スティーブン・トボロウスキー,ライアン・ドイル=マーレー,ハロルド・ライミス
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
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 タイトルから「恋愛もの」だと想像される方も多いかと思います。(私が借りたレンタルビデオ屋さんでは、「コメディ」の棚のカ行にありました。ビル・マーレイがコメディ作品にたくさん出演しているから?)確かに、恋愛のエッセンスも笑いの仕掛けも詰まった作品ですが、より大きな「日常の生き方」について教えてくれる作品でもあります。

 毎年2月2日に開かれる「グラウンド・ホッグデー(アメリカなどで催される、春の到来を占う伝統行事)」の取材のため、プロデューサーのリタたちとペンジルバニア州の田舎町を訪れた、気象予報士のフィル(ビル・マーレイ)。退屈な取材をいやいや終えて帰ろうとするフィルでしたが、急な吹雪によって町に引き返し一泊することに。翌朝の6時、起床した彼が窓の外に見たのは、1年に一度のお祭りに活気づく、1日前とまったく同じ町の風景でした。

 入ったレストランでウェイターがお皿を割るタイミングまで、「2月2日の一日」が繰り返される世界。最初のうちは訳もわからず動揺するフィルでしたが、「時間はくり返すが、前日までの自分の記憶だけは残り続ける」というルールを発見します。それを利用し、同行したリタを口説き落とすことに熱意を燃やし始めます。日々リタについての知識を蓄え、じょじょに仲を深めて行く2人。ですが、いいところまでいっても、1日を終えると元の何もない関係に戻ってしまうことに嫌気が差したフィル。自暴自棄になった彼は、ループする世界から逃れようと、とうとう自殺をはかります。

 「ループする世界」という、一見SFの色が強い設定に思えますが、フィルが囚われた世界は、自分たちが生活する世界と、そんなに変わらないよう気がしました。朝起きてから、夜お布団に入るまで、さしたる変化が起きない普通の日常。少しずつ、生活するエネルギーを奪われていくような単調さは、フィルが苦闘する世界があたえる無力感と、似たもの同士のように思えます。かといって、そんな大きなものに負け続けるわけにもいきません。本作の終盤でフィルに起きた心情と行動の変化、それらが引き起こした一夜の奇跡は、「昨日と同じような今日の世界」を生きなければならない自分たちに、ささやかな希望を与えてくれます。この作品が、これから起こる変化のスタートラインになるはずです。

(文/伊藤匠)

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