もやもやレビュー

天国と地獄は紙一重。『モテキ』

モテキ DVD通常版
『モテキ DVD通常版』
森山未來,長澤まさみ,麻生久美子,仲里依紗,真木よう子,新井浩文,金子ノブアキ,リリー・フランキー,大根仁
東宝
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

 劇場公開当初、勝手なイメージで「森山君がアホみたいにモテる話なんて興味ないわ・・」と思っていた自分を殴りたいです。恋愛の中で、アホみたいに舞い上がる「天国」の瞬間と、現実という地面に叩きつけられ木っ端微塵になる「地獄」の様。その両面が、この作品にはきちんと映されています。

 本作は、テレビ東京で深夜放送されていたドラマ版の1年後の話が描かれています。31歳になった藤本幸世(森山未來)は、縁もありニュースサイト・ナタリーの正社員に。自らのマンガやJ-POPへの愛も手伝い、ライターの仕事に邁進していました。そんな折、Twitterを介してカルチャー誌の編集者をしている松尾みゆき(長澤まさみ)と出会います。このみゆきが、まぁ可愛い。卒倒モノの顔面レベルの高さと、適度なエロさとだらしなさの前に、あっけなく恋に落ちます。デートを重ね、世を統べたかのような幸福感に包まれる幸世。ですが、好意を寄せるみゆきにはすでに彼氏がいることが判明したことで、幸世の恋の地獄が幕を開けます。

 みゆきの友達で、幸世に好意を持つるみ子(麻生久美子)や、幸世の上司であり女性にだらしない墨さん(リリー・フランキー)も巻き込みながら、みゆきへの恋に行き迷う幸世。そんな彼の姿を見て、進行形の恋愛の中では、頂点と底辺が障子1枚レベルで隣り合わせになっていることに気づきました。

 一時の幸せに心踊らしたかと思えば、次の瞬間には悪気のない裏切りや自分の勘違いで、世界の終わりのような境地に...。表題は『モテキ』ですが、その中には気持ちが成就しないことへの苛立ちや、恋と欲のあいだで悶える苦渋の瞬間が、これでもかという位詰め込まれています。不意に襲来する恋愛への予防線として、過去の失敗への懺悔として、お勧めします。

(文/伊藤匠)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム