もやもやレビュー

憧れが破れたって、だいじょうぶ。『17歳の肖像』

17歳の肖像 コレクターズ・エディション [DVD]
『17歳の肖像 コレクターズ・エディション [DVD]』
キャリー・マリガン,ピーター・サースガード,アルフレッド・モリーナ,ドミニク・クーパー,ロネ・シェルフィグ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HMV&BOOKS

 1961年のロンドン、16歳のジェニー(キャリー・マリガン)は成績優秀な典型的な優等生。厳格な父親からオックスフォード大学への進学を押し付けられ、勉強中心の退屈な毎日を送っていました。フランスのレコードを聴きながら自由で文化的な生活を夢見るジェニー。そんな彼女の前にふいに現れたのが、年上の男性、デイヴィッド(ピーター・サースガード)でした。ユーモアに富んだ紳士的な彼の雰囲気に好感を持ったジェニーは、彼に誘われるまま、それまで触れたことなかった音楽会を訪れます。そこにあったのは、綺麗な服に身をまとい、音楽が奏でられる中で優美に社交を楽しむ、ジェニーが憧れた世界そのものでした。

 自分が恋い焦がれる世界で、すでにポジションを持っている人には、誰しも尊敬と憧れ、そして異性となれば、ジェニーのように恋心を持ってしまうのもしょうがない事と言えます。
 私は今大学4年生なのですが、半年ほど前の就職活動の時期には、大企業のOBに名刺を貰ったとか、内定者に知り合いがいるんだとか、「自分ではない誰かの後光」に酔っている人を沢山みました。ぼく自身も、そういう面を当たり前に持っていたと思います。そして熱が冷めると、他人の武器を見せびらかしていただけの、自分の愚かさを知ることになりました。

 作品の終盤、デイヴィッドが隠していたある重大な事実を彼女は知ってしまいます。自分がうわべの世界に踊らされていた馬鹿者であったことに気づいたジェニーは、こう悟ります。「人生に近道なんてないんだ」と。大きな挫折を土台にして、今度は自分の意思で進学することを決意したジェニー。でも、彼女のような、自分を見失った愚かな周り道こそ、近道ではない「真っ当な道」なんじゃないかと思いました。憧れにすがったって、形のない見栄を張ったって、その失敗を足場にできればいいんです!

(文/伊藤匠)

« 前の記事「もやもやレビュー」記事一覧次の記事 »

BOOKSTAND

BOOK STANDプレミアム