『ショーシャンクの空に』を観て、手間をかけて音楽が聴きたくなった。
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言わずと知れた超名作です。ショーシャンク刑務所に無実の罪で囚われたアンディ(ティム・ロビンス)の信念を貫きとおす姿に、勇気を貰った方も多いはず。ラストの海辺での再会の場面をはじめ、印象に残るシーンが多い本作。今回スポットを当てたいのは、アンディが署内のスピーカーを使い、刑務所内にオペラのレコードを響き渡らせるシーンです。
放送室を占拠し、後で処罰をうけることを分かっていながらアンディが流した音楽は、モーツァルトの『フィガロの結婚』と『手紙の二重唱』という曲です。うるおいのない刑務所の生活の中に、不意に注ぎ込まれた美しい歌声。空を仰ぎ見ながら、耳をすませて歌声に耳を傾ける囚人たち。「俺はこれが何の歌かは知らない。よほど美しい内容の歌なのだろう。豊かな歌声が我々の頭上に優しく響き渡った。美しい鳥が塀を消すかのようだった。短い時間だったが皆が自由な気分を味わった」というレッドの感慨に、このシーンの開放感が集約されていると思います。
iPhoneやiPodで、いつでもどこでも手軽に音楽が聴ける中にあって、レッドたちのように「一つの音楽に心洗われる体験」はずいぶん減ってしまったような気がします。それは多分、聴く側が外に出ると同時にイヤホンを耳にさすように、聴くことを日常化させすぎているから。時には一日イヤホンをはずし、帰ってきてから、ゆっくりとCDを(ここがレコードでないところが現代っ子ですね...)をラジカセに入れ、盤を回して音楽を聴いてみる。すこし手間をかけてみることで、濃さが増した体験になるような気がします。
(文/伊藤匠)