もやもやレビュー

嘘があるから、生きていけるんです。『藁の楯』

藁の楯 わらのたて(通常版) [DVD]
『藁の楯 わらのたて(通常版) [DVD]』
大沢 たかお,松嶋 菜々子,岸谷 五朗,伊武 雅刀,永山 絢斗,余 貴美子,藤原 達也,山﨑 努,三池 崇史
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 本が好きです。映画が好きです。フィクションが大好きです。日々の生活の中で「なんだかなぁ」という時に支えになるのは、ままならない日常を覆ってくれる作り物であり、現実ではない嘘の話です。
 
 「この男を殺して下さい。名前・清丸国秀。お礼として10億円お支払いします。」政財界の重鎮である蜷川(山崎努)の孫娘を惨殺したことで、莫大な懸賞金を掛けられ、「日本の全国民から」命を狙われることになった清丸国秀(藤原竜也)。自分を匿っていた仲間からも刃をふるわれ、絶望的な身の危機を感じた清丸は、自ら出頭。警視庁は清丸の身柄を48時間以内に東京まで移送すべく、銘苅一基(大沢たかお)をはじめとする五人の精鋭に護衛を命令します。一般人に留まらず、機動隊などの警察内部からも乱立してくる暗殺者たち。絶対機密である移送ルートがネット上にリークされるトラブルに対峙しながら、文字通り命を掛けて、銘苅たちは任務の完遂へと挑んでいきます。

 護送中に繰り返し問われる「なんでこんなクズのために、自分の命を捧げないといけないのか?」という疑問。ある意味、正常な判断を下して清丸を殺す側へと寝返るものがいる中で、決して姿勢を曲げないただ一人の人物が、銘苅です。ですが彼の根っこにあったのは単なる強い正義感ではなく、飲酒運転に巻きこまれ亡くなった妻が残した「仕事を全うしてほしい」という言葉でした。

 以下ネタバレになりますが、実は上記の妻からの遺言は、銘苅が想像の中で作り上げた言葉であったことが分かります。そういうフィクションを信じないと、自分は生きていくことさえ出来なかった。程度の差はありますが、「嘘を信じて生きていく」という銘苅の行動は、私自身も日常的にやっていることのように思えます(例えば、朝の占いに一喜一憂したり、映画や漫画のストーリーに自分を重ね合わせたり)。ある意味、嘘を信じ込むことは、人生の知恵とも言える気がします。これからもフィクションを信じ、嘘を愛していきます。

(文/伊藤匠)

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