もやもやレビュー

『ハッカビーズ』を観て、悟りを開いた。

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 現在日本公開中の最新作『アメリカン・ハッスル』がアカデミー賞最多10部門にノミネートされるも、残念ながら受賞ゼロに終わったデヴィッド・O・ラッセル監督、2004年の作品。"自分探し"をテーマにした、インテリジェンスな哲学コメディです。

 主人公は、環境保護活動に取り組むオタク青年のアルバート(ジェイソン・シュワルツマン)。同じアフリカ系男性と3回も立て続けに遭遇したことが気になった彼。その偶然の意味を知るために、偶然名刺を持っていた「哲学探偵」に調査を依頼し......。

 映画を観て思いだしたのは、中国禅宗の「十牛図」のこと。悟りに至るまでの過程を10枚の絵で表現したそれは、映画部の連載陣・二階堂武尊さん曰く「禅修行のための教科書」だそうです。(詳しくは、二階堂さんの著書『ぎゅーたん! 「十牛図」で学ぶプチ悟りの旅』参照)。

 十牛図とは、その名の通り牛を巡る物語なんですが、牛はイコール自我の象徴です。大ざっぱにストーリーをたどると......牛の足跡を追う(自分探しの旅に出る)→牛を発見(自分を見つける)→牛とお別れ(自我から解き放たれる)。そんな感じです。

 でも意外なのは、「悟り=自我から解き放たれる」じゃないこと。十牛図が示す悟りの最終形態は、人との絆・つながりを得ること。悟りを開いてる人って、俗世から離れた孤高の仙人のようなイメージがありますが、どうやらそうじゃない!というところが、十牛図の面白さ。

 で、なんと『ハッカビーズ』でも、主人公のアルバートが自分探しの旅の果てに見つけたのは、いつもの日常の中の友情でした。これ、完全に十牛図。ちなみにデヴィッド・O・ラッセル監督、大学では東洋哲学を学んでいたといい、禅にも興味があるようです。偶然の一致じゃないかも知れません。というわけで、「十牛図」と『ハッカビーズ』、セットで楽しんでみてください。

(文/根本美保子)

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