もやもやレビュー

流行りの塩顔男子とは逆をいく濃い味の人たちに敬意を表す『夏至』

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 皆さまごきげんよう。お若い方の気持ちを知ろうとティーン向けの雑誌を見てみたところ、細かな文字でギッシリと詰め込まれた情報量の多さとテンションの高さに体力がついていかず、眩暈を起こしてすぐに閉じるハメになりました。モデルさんの脚の長さにもクラクラです。

『ノルウェイの森』の監督でもあるトラン・アン・ユンさんの『夏至』を観てみました。ヴェトナムに暮らす3姉妹のお話です。
 皆、夫や恋人との関係にそれなりにいろいろあるのですが、直接的なことは言わずにぼかしておくところが日本人の感覚と近くて親近感を覚えます。

 そして旅情をかき立てるような、東南アジア特有の高い湿度や濃い色合い。出てくる人々も存在感とか色気とか何かと濃い(顔も濃い)。トーキョーに暮らしていると知らぬ間に去勢されて生命力が薄まっていく感じがいたしますが、たまに下町や地方、海外の田舎に行ってこうした濃い味の人々に出会うと、押し出しの強さがやや面倒な半面、嬉しい心持ちがします。人が時として動物園に行ってトラなど眺めたくなるのもきっと、元は野生だった動物たちの濃い味を求めてのこと。関西の濃いおばちゃん方がトラ柄やヒョウ柄を好んで着るのは濃い者同士の同族意識であり「生命力を薄めてないぞ、野生の力を秘めてるぞ」という表現なのに違いありません。

 ティーン誌によれば世間ではあっさりテイストの最上級・塩顔男子がもてはやされているそうですが、ここは逆行して濃い味を求めていくのが生態系のバランスには必要ではないでしょうか。しっとりと色香の立ち上るような濃い目のヴェトナム男子やもう少し近くでは九州男児の方を個人的にもてはやしていきたいところです。単なる好みですが。

(文/小野好美)

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