もやもやレビュー

『ナポレオン・ダイナマイト』を観て、人は見かけじゃないですよね、と思った。

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 見かけで人を判断する人が苦手です。でも、「この人は見かけで人を判断する人だから」という先入観でもって人を判断してしまう自分がもっと嫌いです。そんな先入観スパイラルを打ち破ってくれるのが、2004年にアメリアで公開された『ナポレオン・ダイナマイト』です。
 アイダホ州の田舎町。主人公は、天然パーマにメガネの冴えない高校生・ナポレオン。いつも口が半開きで、いつも誰かに怒っているし、ちょっと嘘つくし、人と話す時は目を合わさないし。というか、そもそも言葉を発する時はなぜか目をつむってしまいます。人と目を合わせられない人間が取る、究極の行動です。そんなナポレオンは、学校でも格好のいじめられっ子なわけで。
 製作費40万ドルの超低予算のインディーズ作品ながら、3400万ドルの興行収入を記録したこの映画。キャラクターのフィギュアがつくられ、劇中でナポレオンが着用していた「Vote For Pedro(ペドロに一票を)」のTシャツをつくったらパリス・ヒルトンがそれを着たとか着ないとか。日本でも公開当時「スタジオボイス」の表紙になったりと、とにかく話題作だったわけです。が、ソフト化にあたり、ついた邦題が「バス男」。当時日本でヒットしていた「電車男」にあやかり、主人公がバス通学しているというだけで、です。
 そんな残念な経緯を持つ本作ですが、特徴は「積極的な非リア充」を描いているところにあると思います。ネットの住人に頼らないんです。自発的なんです。人間の二面性、意外な側面と言い換えてもいいかもしれません。
 たとえば、ナポレオンの唯一の友達、メキシコ人の転校生・ペドロは、ナポレオンと同じくらいイケてないのに学校イチの美女をダンスパーティーに誘ったり、生徒会選挙に立候補したりする。同じくナポレオンと友達になる非モテ女子・デビーは、学費を稼ぐために写真館を経営していたり、手づくりのストラップを売り歩いたりする。ナポレオンの叔父・リコおじさんは、いろいろあって"1982年"に固執しながら、ややインチキだけども起業し商才を発揮。そしてナポレオンは、ひそかに練習していたダンスによってペドロのピンチを救います。彼がこの隠れた才能を爆発させたこのシーンは、映画史上トップ3に入る名ダンスシーンといえるくらい感動します。「俺、あのダンス完コピしてるよ」って言われたら、即求婚する勢いです。確実に断られるけれども。
 非モテ・非リア充というと「どうせ俺なんて」と卑屈になりがちだと思うんですが、彼らはむしろそれを原動力に変えて、前向きに積極的に、自己実現に向けて立ち向かっているのです。ダメダメだった登場人物たちが、ダサさやイケてなさをハンデともせず、自らの力でちょっとずつ幸せになっていく様には元気づけられます。描かれ方は激ゆるですけど。見かけとか表層的な情報からは想像できない中身のスゴさ。これってまさに「バス男」というタイトルが体現していることなんじゃないかと。見かけに騙されたり、先入観に負けない人間になろうと思える映画です。
 ちなみに、1日数時間のチャットに勤しむ32歳・引きこもりのナポレオンの兄キップを演じたアーロン・ルーエル。本業は写真家兼CMディレクターで、本作の洒落たオープニングタイトル(パテのソースや、図書館の貸出票がスタッフクレジットになっている)は、彼によるものなんだそうです。そんな俳優陣の意外な経歴を辿って行くのも楽しい映画です。

(文/ペンしる子)

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