もやもやレビュー

願わくば、老後は喜劇がいい。『大鹿村騒動記』

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 『大鹿村騒動記』を見ました。いやはや、じいさんに魅せられた1本でした。そして、名優原田芳雄が企画立案からかかわり、遺作となってしまった作品でもあります。
 舞台は長野の南アルプス山麓にある大鹿村。この村では、300年以上も村歌舞伎の伝統が守られてきました。その大鹿歌舞伎に花形役者として人生を捧げてきたのが、風祭善(原田芳雄)。普段は鹿料理店「ディア・イーター」を営む善ですが、18年前に女房に逃げられ独り身。背中から滲みます。いろんなものが。いぶし銀俳優演じる男やもめに胸きゅんです。
 歌舞伎公演を目前に控えたある日、事件は起こります。失踪していた妻が戻ってくるのです。それも、善の幼なじみでもあり、かけおち相手でもある治(岸部一徳)と一緒に。しかも、治はこう言いやがります。「ごめん、返す」。もちろん善は激怒。そりゃそうだ。ものじゃないっつーの。理由を聞けば、認知症を患い、駆け落ちした記憶さえないからという。筆者だったら、知るか! そんなの!! って思います。だけど、善は怒ってはいるけれど、追い詰め切らないばかりか、その日は二人を家に泊めちゃいます。さらには、翌日去ろうとする治に「歌舞伎見て行かないのか」と引き止める始末。うーん。男の人って優しさがベースでできているのでしょうか。女は、追い詰めます。詰め寄って、ジリジリとにじり寄って、土俵さながらに寄り切る。もはや力士。女の喧嘩は相撲です。嘘です。片や、治の芝居がかった懺悔ぶりもいいです。2人の攻防から、じいさんの中身は小4だなって思いました。青年期の男子は大人ぶろうと頑張っているから、大人に見えることもままありますが、そんな頑張りを放棄したじいさんは、もはや中2ですらなく小4です。脱線しまくりました。そんな大事件に加え、リニア新幹線の誘致にまつわるゴタゴタがあったり、もうひと波乱あったり、そして迎える歌舞伎当日...。
 こんな状況、当事者にとっては笑い事ではないはずですが、傍から見ればなぜか喜劇。じいさんに憧れたところで、筆者の行く末はばあさんに決まってはいるけれど。老後は是非ともこんな感じでお願いしたい。

(文/森 亜紀子)

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