もやもやレビュー

『シュレック』を観て、友達の功罪について考えた。

シュレック [DVD]
『シュレック [DVD]』
マイク・マイヤーズ,キャメロン・ディアス,エディ・マーフィ,ジョン・リスゴー
ドリームワークス
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 ピクサーと人気を二分する、アメリカンCGアニメの雄・ドリームワークス制作の『シュレック』(2001年)。Mac贔屓=ピクサー贔屓という人を苛立たせるような嗜好を持っているため、手つかずのままだったドリームワークスのアニメ。ですが、観なかった自分に天誅食らわせたくなるほど、いい映画でした。

 自分の醜さをコンプレックスに感じている緑の怪物(オーガ)、シュレック。本来は優しい心の持ち主なのですが、見た目から受ける印象で周囲が恐れているために、わざと怖い怪物を演じています。そして人里離れた沼知でひとりぼっちライフ。
 そんな折、ドンキーという奇跡ともいえるほどイラつく顔をしたロバが現れます。彼こそが、シュレックを見た目で判断しない、初めての"友達候補"。本当のシュレックを見てくれる貴重な存在です。しかしひとりぼっちに慣れすぎたせいか、なかなか心を開けないシュレックは、ドンキーはじめいろいろあって身を寄せてきたおとぎ話の主人公たちを追い出そうと決意。なんだかんだあって塔の上のお姫様を救い出し、彼女に恋をしてしまいます。

 友情とか恋とか、なんだよおいシュレックはよーとか思いますが、それらは決して楽しいだけではありません。大事な人が去ってしまう辛さを、シュレックは味わうことになるんです。ざまぁなんて1ミリも思えません。それどころか、辛そうな彼を見ていると、泥のシャワーを浴びたり、沼で思い切り屁をぶっ放して魚を死に至らしめたりと、ひとり遊びをめちゃくちゃ楽しんでいたオープニングムービーの時の姿が頭をよぎります。
むしろ、ひとりの時の方が楽しかったんじゃないか?

 ストレスを感じることもなく、気ままに暮らせるひとりぼっちの生活。それって、一度友情や恋を味わってしまったら、もう戻れない日々のことを指します。ゼロか1かの話です。だから今後もし、ドンキーやお姫様を失ってしまったら、また同じ感覚でひとり暮らしできるようになるには、長い時間が必要になるわけです。
 友情や恋を味わうことにはリスクを伴うことです。生まれた時からひとりも友達ができなければ、公園のベンチでひとりパソコンを広げることを寂しく思うこともなかったのだろうと思います。あの頃を思って。あの頃はまだ友達、いたなぁとか思って。なんか無駄に寂しくなってきました。
 友達も恋人もいなくなるというシュレックにとって最悪の場合を想像してしまったため、何だか寂しい気持ちになりましたが、本当の自分を見せられる数少ない友達を大切にしたいと思える素晴らしい映画でした。

(文=根本美保子)

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