『ハート・ロッカー』のシリアルに絶望を感じた
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シリアル界最強は、カルビーのフルーツ・グラノーラ!と思ってやまない昨今。イラクを舞台にしたアメリカ軍爆弾処理班のお話『ハート・ロッカー』を観ました。
いくつもの戦地で無数の爆弾を処理してきた、爆弾処理のエキスパートが主人公。自らの命を顧みず爆弾に立ち向かうヒーロー! 万歳! かっちょいいぞ! なんて単純明快な作品ではありません。この映画がただのヒーロー映画でないことを物語るもの。それがシリアルです。
戦地での過酷な任務を終えて一時帰国し、妻子と一緒にスーパーで買い物に行く主人公。妻から何気なくシリアルを買っておいてと言われ、シリアルコーナーに行くんですが、そこには10mほどはありそうな巨大な棚があり、何十種類ものシリアルが並んでいます。2007年の日経トレンディの記事によれば、アメリカのシリアル消費量は年間27億箱だそうです。1人当たり年間約4.5kg、160食分のシリアルを食べているのだとか。シリアル大国です。そしてシリアルはアメリカの日常を象徴するもの。
と、半端なく膨大な種類のシリアルを前に立ちつくす主人公。どれを選んでいいのか判断できず、手前にあったシリアルを手に取ります。爆弾から伸びたコードを切る時は嬉々として判断をくだす男が、シリアルごときを選べない。そしてその前の晩には、まだ言葉も話せない息子に、子供の頃は周りのもの全部が好きだけど、大人になると好きなものなんて1つか2つしか残らないんだと語りかけています。そんな主人公が好きなものは、人を殺しそうになったもの。自らが解体した起爆装置を集めるのが唯一の趣味なのです。
シリアルが選べないのは、普通の日常に興味が持てないからだと思います。そもそもどのシリアルを選んでも、日常なんて何も変わらないのだし。というかシリアルの種類が何十種類もあること自体が無意味だし。また、戦地にいる時にイラク人の子供の顔を見分けることができなかったことと、どれも同じに見えるシリアルの箱も重なってきます。どちらも見分けることに意味などないものとして。それよりも大事なのは、やるべきことをやること。いや、主人公は単に自分の好きなことをやっているに過ぎないのだと思いますが。で、彼はまた別の戦場へと出かけていきます。
『ハート・ロッカー』のシリアルは、無意味なものの無意味さを、教えてくれたように思います。それでも、カルビーのフルーツ・グラノーラはやっぱり美味しいですけど!
(文/根本美保子)