『時をかける少女』で大人になるのも悪くないと思った。
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とかなんとか悠長なことを言っている場合ではない三十路過ぎの筆者ではありますけれども、でも確かにそう思ったのです。
大林宣彦監督の映画『時をかける少女』のラストで流れる15歳の原田知世の歌声と、40歳の原田知世がセルフカバーした「時をかける少女」(アルバム『music & me』に収録)の歌声を、昨日と今日に続けざまに聴きまして。泣きそうになりました。いえ泣きました。ずきゅーんときました。
25年の時を経た原田知世の歌声が、あんまりにも伸びやかで優しくて澄んでいて、それでいて15歳の時にはなかった憂いがあって。ボサノバ調のアレンジだから余計にそう感じるのかもしれませんけど。ふたつの歌声の間にある25年という時間を、軽くもなく重くもなくいい塩梅で感じさせてくれるんです。あと歌が上手くなっている(というのはどうでもよかったりします)。
映画『時をかける少女』は、大林監督の尾道3部作のうちの2作目。風景も雰囲気も全部含めて、なんというかジブリ映画を観ているようでした。ジブリ作品を実写化するのなら、大林監督しかないんじゃないかと思いました。その風景の中にいるのが、この映画でデビューを飾るまだ無名の少女だった原田知世です。大林監督は、DVDに収録されているインタビューの中で、この映画は日記なんだというようなことを言っていますが、言われてみればほんとにそんな感じなんです。
だから、映画という作り物の世界ではあるんですけど、原田知世自身の15歳の一瞬を垣間見た気になれるんです。たぶんそれは特別かわいいわけでもないし、演技が上手なわけでもないからこそで。和子という役柄を演じている、15歳の原田知世。一生懸命にその環境を受け入れて、きっとすごく楽しんでいたであろう原田知世。そこにいるのは和子というより、いわゆる原田知世なんです。
だからこそ、40歳の「時をかける少女」を聴くと、ほんとに時をかけた感じがしてたまらない気持ちになるんです。そして、その間にある25年を少しだけ想像しながら、大人になるって、きっとそう悪いことでもないんだろうなと思える。
映画の中に、時は過ぎるものじゃなく、やってくるものだという台詞があります。これからやってくる時を受け入れながら、普通に生きていけばいい。それでいいんですね。ちなみに『music & me』はほかも全部いい曲です。5年も前のアルバムですけども。
(文/根本美保子)