"遅刻レジェンド"安斎肇が『タモリ倶楽部』をクビにならない理由

コンプレックス文化論
『コンプレックス文化論』
武田 砂鉄
文藝春秋
1,620円(税込)
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 誰にでも何かしらコンプレックスがあり、受け入れたり克服したりと人生にとって厄介なもののひとつではないでしょうか? 

 しかし、そんなコンプレックスこそが文化を形成してきたという観点から、その本質を、当人のインタビューを交えながら考察するのが、武田砂鉄著による本書『コンプレックス文化論』。ただし、ここで扱うコンプレックスは、深刻なものではなく、「えっ、それくらい自分で何とかしろよ」とツッコまれてしまうようなライトなもの。例えば「遅刻癖」。

 本書では、ネットで名前を入力すると予測変換に「遅刻」と出てしまうほど"遅刻レジェンド"であり、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)の人気コーナー「空耳アワー」でおなじみのイラストレーター・安齋肇さんにインタビューしています。

 本書によると、もともと昔から遅刻癖があったものの、『タモリ俱楽部』でタモリさんが安斎さんの遅刻のたびに「今日も遅刻してきたよ」と報告していたことから、世間的にも「安斎=遅刻」というイメージが定着したそう。番組に遅刻してしまい代わりの人が出演する事態になったこともあったにもかかわらず、番組側は午前の予定を午後に回してくるなど、調整してくれていたといいます。

 当然ながらそうした仕事ぶりを見ていた業界関係者たちは、「あんなに遅れる人を使うんだったら、ちゃんとした人にしたほうがいいんじゃないですか?」「うちのタレントでこんないいのがいますよ!」とアピール。しかし、それらの申し出を一切受け入れず、安斎さんの出演存続を決めた人がいました。

 「『あの人でいいんじゃねぇか、あんな社会性のない人が出てること自体が面白いだろ?』と言ってくださったのがタモリさんなんですよ。でも、タモリさんに聞いても、『言ってないよそんなこと』って認めないんですけどね。それはタモリさんがそう言ったことを認めたら、『お前もっと甘えるだろう』っていうことを分かってるからだと思うんです。」(本書より)

 そのうえで安斎さんは絵の先生として学校に呼ばれた際に、イラストレーターの卵たちにこう訴えているといいます。

 「『守ることはいいことですね、偉いね』ってまずは言う。で、『遅れたにもかかわらず許してくれた人には一生ついていきなさい』って。あるいは、『遅れたからにはいい仕事を』と。」(本書より)

 本書ではほかにも安斎さんが遅刻を継続できた理由や精神など珠玉の"遅刻論"から、遅刻と表現する仕事の親和性に迫っています。加えて、「天然パーマ」「セーラー服」「ハゲ」「一重」「背が低い」といったコンプレクスを抱える各方面のアーティストやアイドル、学者の流儀も必見。私たちはそこから様々なことを学びとれることでしょう。

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