オトナ泣き続出 90年代に青春時代を過ごした人必読の、異色のラブストーリー

ボクたちはみんな大人になれなかった
『ボクたちはみんな大人になれなかった』
燃え殻
新潮社
1,404円(税込)
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 小沢健二、Olieve、WAVE、ラフォーレ原宿、デイリーan......1990年代後半に20代を過ごした人たちにとって、これらの言葉は特別な意味を持って胸に響くかもしれない。一つひとつのワードを聞くだけで、そのころの思い出や景色、空気感までもがワーッと瞬時に蘇るような。

 本書『ボクたちはみんな大人になれなかった』の主人公は現在43歳。かつて唯一、自分よりも好きになった女性を今も忘れられないでいる。相手は17年前、渋谷で別れたきりの最愛の彼女。朝の満員電車に揺られながらスマホを見ていた"ボク"は、知らないうちにフェイスブックで彼女に「友達申請」を送信してしまうところから物語は始まる。

 時はさかのぼって1995年。当時20代前半だった"ボク"は、アルバイト情報誌『デイリーan』の文通コーナーをきっかけに"かおり"という女の子と知り合う。文通を重ねた"ボク"とかおりは、ラフォーレ原宿の前で待ち合わせをして会うことに。そのときのお互いの目印は「WAVE」の袋。かおりは高円寺の仲屋むげん堂の販売員で、手紙に「小沢健二はわたしの王子様です」と書き、『Olieve』に載っていたケイタ・マルヤマのスカートに似せるべく白いロングスカートに自分で花柄を描くような女の子だった。

 そう、この小説には今の43歳が自分と重ね合わせて身悶えしたくなるようなワードが散りばめられている。"ボク"がこれまでの人生で唯一自分より愛した彼女との思い出を振り返ることで、読者もまた自分たちが20代の"あのころ"に戻って、切ない記憶がかきむしられる体験を一緒にするのだ。若い頃の、夢もない、お金もない、手に職もない、今の自分と比べてどうしようもない、本来であれば二度と戻りたくないような"あのころ"。それなのに、どうして今も思い出の中ではきらきらと輝いて仕方がないのか。

 本書が誰をターゲットにしているかは帯を見てもよくわかる。作家の樋口毅宏さん、お笑いコンビ「スピードワゴン」の小沢一敬さん、映像ディレクターの大根仁さん、ライターの古賀史健さん......主人公と年代の近い人たちの絶賛の数々。その中に紅一点で、いま飛ぶ鳥落とす勢いの人気女優・吉岡里帆さんを入れているのも見事なチョイスといえる。読むべきはアラフォー男子なのはあきらかで、実際"オトナ泣き"する人が続出というのも納得できるというものだ。

 著者の燃え殻さんはありふれた風景の中の叙情的なつぶやきが人気となり、本書で作家デビューを果たした人気ツイッタラー。「140字の文学者」と呼ばれるその表現力は、本書でもいかんなく発揮されている。

 過去をめぐる思い出の旅を終え、本書の最後ではふたたび2017年現在の主人公の姿が描かれる。かおりからフェイスブックの友達申請が承認されたという通知が来て緊張する"ボク"。彼女は今の"ボク"に対していったいどんな判断をくだすのか。フェイスブックに対する彼女のリアクションは、見ていてスカッとする人も多いはず。過去の恋愛において、男性はフォルダ保存し、女性は上書き保存するというのはあながち間違いじゃないのかもしれない。

 あのころの恋人より好きな人に会えないまま今を生きるすべての人たちに贈る、切なくて美しいラブ・ストーリーがここに。ぜひ覚悟をして読んでほしい。

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